adrianのブログ

チェックと日本の現代美術界についての感想

町田久美

2010年6月25日

手紙(2009年)

この、町田久美についてのエッセーは去年の夏に書いたものです。私は、彼女がコペンハーゲンに長期滞在していたときに会い、国際的に名を残す「ゼロ年代」のアーティストの一人だと思っています。今年の初頭に大阪で行われた「絵画の庭-ゼロ年代日本の地平から」展で、彼女の展示室は、この展覧会の傑出したハイライトのひとつでした。また、彼女は、来春ニューヨークで行われる、デイビッド・エリオットによる日本協会向けにセレクトされた、待望の「Bye Bye Kitty!!!」に出展予定です。彼女は、ニューヨーク近代美術館(MOMA)にコレクションがある、数少ない日本の最近の現代美術家の一人です。


町田久美

町田久美にとって良い年になった。1月に大阪の国立国際美術館でグループ展に参加し、少なくとももう一つ、近々ニューヨークで行われる大きな国際展に出展する。彼女は「美術手帖」や「ART-iT」(no.21で彼女の特集を組んでいる)でとりあげられる、ポスト・スーパーフラットの「ゼロ年代」の立役者として2000年代中期の新来アーティストの中でも卓越した存在だ。彼女の『ソドムの百二十日』の挿絵は、高橋氏の上野で開催されたネオテニー展のハイライトの一つであり、このコレクションの核とも言えよう。最近デンマークのルイジアナ美術館で行われたマンガ展に束芋、ヤノベケンジと共に出展した中でも、彼女の展示場は一番インパクトがあった。それは、彼女のお決まりの伝統的な和紙に墨で描かれた、不気味でミニマリスト的なクリーム色と黒の丸っぽい形の完全セットのように感じられた。かなりのコレクションがある高橋氏にだけでなく、彼女の作品は特にアジア市場や彼女が最初にブレイクしたドイツでもよく売れている。

これら全ては、東京の西側の中央線の彼女のアパート/スタジオからはるか離れた場所で今おこっているのだ。今まで約一年間、彼女は国費奨学金を手に、コペンハーゲンで訪問アーティストとして生活していた。東京のせわしないアートシーンから抜け出したかったのだ。コペンハーゲンでは、平和で適度な孤立を味わえた。ドイツのようであるが、アーティストの視点からすると少し静かで小さいといえる。彼女は、しばらくの間日本から離れることを考えている数多くいる若い進出の日本人アーティストの一人である。ドイツやデンマークでは、アーティスト用の施設は良く、快適に過ごせる。そしてアートは公共事業などで熱心に取り扱われている。彼らは、若いアジアの外国人達をヨーロッパの公共資金で呼び寄せ、生活させることを厭わない。この制度がなければ、今の奈良美智や束芋、塩田千春はいなかっただろう。デンマークで起こりうるもっとも危険なことといえば、自転車に轢かれることぐらいだろう。日本の領事館ですら小さく、親しみのあるオフィスで在外日本人達の為に尽力してくれる。

町田はいつも旅をしていた。大学卒業後、アジアを重点的にまわり、インドとチベットに強い繋がりをもった。とはいえ、ヨーロッパは彼女にとって新天地であり、パリ、ロンドン、ベニスのような古い町や文化の魅力に捕らわれた。もちろん、それはいつも放浪アーティストにとって容易いことではなかった。なぜ、多くの若い日本人クリエイターが、それを彼らのフラストレーションの解決法と考えるのか不思議に思うだろう。孤立は、またむしろ孤独な状態になりうる。デンマーク人達は親しみやすい反面、色々な場所に招待してくれるようになるまで時間がかかるのだ。町田はこの年、思ったよりあまり生産的ではなかったと認めた。彼女が必要とする特別な画材(日本の特別な和紙と筆や、ドイツのスタビロ製の鉛筆など)を手に入れるのは容易ではないのだ。何度も引越しをし、物を失くし、知らない土地、文化に慣れるのは大変である。すべてを持って、外国に移り住む事の利点は常に複雑なのだ。

デンマークでは「アジア」のアートがとても評価されているものの、無知度もかなり高い。すばらしい施設に敬意のこもった対応だが、作品はしばしば狭い範囲の中でしか理解されない。これはもちろん「マンガ展」でも見られた。束芋と町田は、彼らの作品はマンガとは(明らかに)関係ないことを主張したのだが、その甲斐もなく、両方ポップカルチャーのカテゴリーにぞんざいにまとめいれられた事に不快感を示していた。未だに(女性の作家である場合は特に)「カワイイイイイ」は、ヨーロッパで日本の現代アートを評価する上で最も重要な要素なのである。この二人は、デンマーク人のキュレーターによって、手塚治虫の漫画と北斎のスケッチとの真偽のはっきりしない歴史的つながりの真ん中に位置づけられており、日本に偏在するポップカルチャーの天才のさらなる証拠として紹介されていた。しかし、町田の作品は少々不気味で済まされる物ではなく、到底ポップでもなく、簡単に消化できるようなものでもない。技巧、詳細、すべての線の精密さを生で描いているのを見るのが一番よい。この作業に「フラット」的なものはなにもない。画材もまた、限りなく重要ポイントである。顔料、金属箔のちいさなかけら、最低限に抑えられた色、彼女が紙を四方に張りつけて作るキャンバスのような立体のブロックなど。それらは、間違った動きや下手な取り扱いで繊細な吹きガラスのように粉々になったり、一滴のインクで一瞬にして台無しになる様な作品にみえる。この繊細さと比べるとポップアートの多くは、かなり雑にみえる。

町田は、インスピレーションを求めてデンマークに来たわけではない。彼女の描く形は、どちらかと言えば、ほんの少しあるかないかの内容を伴って完全なる夢の世界から生まれてくる。ただ、彼女は新しく描いている絵のモデルにアジア人ではなく、白人を使う実験を始めたと言っていた。彼女の東京のギャラリーである、西村画廊は立派な古参のギャラリストで、現代アートの主流からはずれ、35年間手堅い商売をしてきた。西村氏は彼女の作品をとても気にかけてくれるが、同時に彼女を東京の主な繋がりから幾分孤立させている。彼女の名を知らしめたのは、2006年に東京都現代美術館で行われたネオ日本画に触発された作品を集めた「No Border」展だった。松井冬子や天明屋尚もここで注目を浴びた。私の手元にあるカタログは、自分では、上手いこと安く手に入れたと思っていたのだが、この二人のページが抜き取られていることに気づいて面食らった。しかし、ポップ/デザインの境界で、この二人の作品は、かなり明らかにイラストレーター的である。町田は日本画との関連や、その他のアーティスト達との関係付けに苛立ちを感じていた。彼女の仕事に伝統主義者的なところはたいしてなく、何年も前に多摩美で受けた訓練とも決別していた。「No Border」展は、一連の日本の若手アーティスト達が、国家の政治的、軍事的過去をほじくり返すことなく、異なった精神的な場所を探求できるような「日本回帰」という観念をもって、何かをしていることを示したかったのかもしれない。このような表現に町田を位置づけることは難しい。彼女は9月に日本に戻る予定であるが、2度目のヨーロッパ長期滞在のための更なる奨学金を得られることを望んでいる。

ADRIAN FAVELL
http://www.adrianfavell.com

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