adrianのブログ

チェックと日本の現代美術界についての感想

松井えり菜

2010年9月15日


日比谷の高橋コレクションでのオープニングが開かれた今、私が去年のクリスマスに書いた松井えり菜の記事を再投稿するのにいい機会だと思います。4月に山本現代で新作の卒業個展を成功させ、そこで高橋は大きな二枚の屏風に描かれた『MEKARA UROKO DE MEDETAI!』を購入しました。今回、4月のオープニングで撮った新しい写真も一緒に掲載します。

松井えり菜


MEKARA UROKO DE MEDETAI!(2010)

私が初めて松井えり菜に会ったのは、上野駅のスタバだった。それはとても楽しいインタヴューで、私が次の約束の時間に遅れているにもかかわらず、彼女はお土産にとプリクラの機械を探しに私をアメ横に連れ出した。彼女はそれを半分に切り私にくれた。2度目も、また上野駅で待ち合わせたのだが、今回は、町屋まで電車に乗って彼女のスタジオに行き、製作中の作品やおもちゃのコレクションを見せてもらった。私は、彼女がGEISAIで金賞をとった後、2004年に最初に彼女の作品を何点か購入した、かの有名なカルティエ財団のコレクターであるエルベ・シャンデスの足取りを追っていた。

それはクリスマスのことで、日が暮れるのが早かった。近所はきらびやかな100円ショップやパチンコパーラーで賑やかだった。数えてみたのだが、近場に最低でも3つの銭湯がまだ営業していた。結局、今回は私の強い希望で、60年代の小ぢんまりとした、茶色の喫茶店にケーキセットを食べに行った。店内ではビートルズが流れ、えり菜がとても気に入っていた、音のなるおもちゃで飾られた陳腐なクリスマスツリーがあった。


小宇宙展

実は、2008年11月に大盛況を収めた山本現代での初の個展「わたしの小宇宙」のオープニングで、私は彼女が作品について語っているのを見ていた。その日彼女は、家族、友人、祝福する人々、美術手帖の記者、我先にと「リスト」に載せてもらおうと必死なコレクター達にもみくちゃにされていた。それが彼女の東京の商業シーンでの初の大ブレイクだった。その時から、作品待ちリストと価格はうなぎのぼりとなった。とても若くして成功者でいるのは、容易ではない。彼女は2005年から2006年にカルティエ財団のグループ展に参加し、既にヨーロッパで(2007年にバルセロナのミロ美術館において)個展を開いていた。若いときにこれほど成功すると(言い回しにもあるとおり)最後に出した優れた作品と同価値にしか見られない。



松井はもちろん、彼女が彼女自身を(彼女の顔が歪んだ自画像)ほとんどすべての作品に登場させているやり方のために「えり菜」であることは避けられない。私にとって、えり菜のエッセンスは美術大学の出願用に使われた、素晴らしい表紙の写真に既ににじみ出ている(一番上の写真)。それは、『CUTiE(キューティー)』や『Kera (ケラ)』といった、たくさんあるティーン誌をパロディした写真だった。その写真はまた、山本裕子が松井と契約した時、一番目を留めたものの一つだった。そして、画廊はそれをどんどん増え続ける彼女のプロ用のポートフォリオに使っている。

何が明らかかというと、彼女のすべての作品に通じる野卑なユーモアの連続は、日本のお笑いの伝統に通じるところがある。それは、東京では大抵、会田、小沢、ミヅマギャラリーのアーティスト達にみられるような「ギャグ・アート」の一種である。すなわち、彼女の作品は、かわいくて、子供じみたものと(おなじみの東京ガールズのキーワードだ)、グロテスクだったり醜く見える何か別のものとを混ぜ合わせ、そこでとても意識的に、彼女自身の歪んだ自己執着のようなものをもてあそんでいる。松井が2004年に村上隆のGEISAIアートフェアでグランプリをとったためか、カイカイキキガールズのフラットなイラストレーションとしばしば誤ってひとくくりにされているが、このうまい組み合わせを持つ彼女の作品は、明らかに別格である。彼女の作品は「フラット」であったことはないが、精巧に描かれ、すべての感覚を利用している。実際、それらは壁から飛び出すかのようだ。カイカイキキが、すべての気まぐれな夢やティーンエイジのトラウマといった使い古されたティーンエイジの女の子のイコノグラフィーを西洋のネオジャポニストの好みに合うように、巧みに操作する方法はかなり薄っぺらく、ユーモアに欠けるものがある。対照的に、えり菜の視点は抗いがたく、男性オタクの影響を受けていない。また、それは、明らかに対象が決まっている。

松井はアートを大人のおもちゃだと言っている。彼女は、とても若い時、考えられる限りのおもちゃであふれた夢のような世界で育ったことを覚えている。そして、ある意味、彼女はまだそれらを彼女の周りに置いている。いったい誰が大人になりたいだろうか。彼女には仲間がいる。それは、チャールズ・サーチが彼の近著、アートホリックの本でも認めていたことである。実際、われわれは、男の子も女の子もどこでも人形、昔はやったヒップホップファッション、スターウォーズのおもちゃなどを40代になっても集め続けている世界にいるのだ。えり菜に関して言えば、彼女のコレクターとしての情熱は、すべてのエネルギーと発想であり、時に乱雑で過剰でもある。彼女のキャンバスは音楽の再生ボタンやポップアップ絵の引き手と共に、徐々に部屋中にあふれ出し、彼女が作ったお手製の機械仕掛けのおもちゃに取り囲まれている。彼女の執着心は明らかだ。しかし、えり菜と話していてはっきりしたことは、どれほど彼女が作品のことを熱心に考えているか、そして、どれほど彼女が概念の発展と次の教育的な段階(おそらく国際的)について懸念しているかである。それは、いつもヴォードヴィル劇場のショーの裏で、すぐに明白になるものではない。だが、一つだけ確かなことがある。彼女の作品はいつでもどこでも即時に腹の底にこたえる衝撃を与える。


『エビチリ大好き』(2004年)出世作

GEISAIでの20歳にしての成功は、明らかに彼女にとって重要だった。彼女はそのコンテストで賞を取った最も成功したアーティストである。しかし、彼女が他の受賞者とは異なり、誘いを受けたにもかかわらず、カイカイキキのグループに関わらないことを選んだのは、彼女の成功に同じように重要だ。一番の理由は進学だった。いくら村上隆の名がついていたとしても、アマチュアのアートフェアで賞を取ることより、美大の訓練や数年間、他のアーティスト達に交じり得られる技術的、概念的な発達は何事にも代えがたいことを彼女はよくわかっていたのだ。彼女は多摩美を終了後、東京芸術大学大学院でさらに技術を磨くために油画を専攻した。彼女は、行くところどこでもメンターや師を見つけた。彼女が特に名を挙げたのが、小谷元彦の確固たる助言とクラスメートのグループプレッシャーだった。

ここ数年、彼女は多忙を極めた。2007年にグループ展、「How to Cook Docomodake」に参加し、彼女と同名の有名な「A型」の野球選手、松井秀喜の似顔絵が入った巨大な東京トラッシュの名画を出品した。2008年には、「Art Award Tokyo」 で『食物連鎖スターウォーズ!』を出品し、ファイナリストに選ばれた。また、台北で開かれた「Simple Art of Parody」展に、何点か出展し、そこでは、えり菜のコレクターズ・グッズも販売された。その年の終わりには、表参道にあるニューヨーク近代美術館(MoMA)のアートストアで開催された、世界巡回モレスキン展の「デトゥア東京」のために、刺繍や飛び出す絵などが施された、秀逸なノートブックを作り上げた。ここから彼女のオープニングでのインタヴューが見られる。

http://www.youtube.com/watch?v=m3gL4Aif7KM&feature=related

日比谷の高橋コレクション、「ネオネオガールズ」展でも作品を見ることができた。また、彼女がロココ・日仏スタイルのマリーアントワネットの衣装でオープニングを行った、六本木のフランス大使館旧庁舎の華々しい「ノーマンズランド」展もある。(彼女のART-iTでのアートブログ参照)すべてを見るには時間が少なすぎるほどだ。



彼女のスタジオについていえば、北の「下町」時代には終わりが近づいている。彼女は、国分寺にある彼女が言うところの「きれいな新しいスタジオ」に引っ越しをするのだ。東京の素晴らしい場所である中野から国立に続く魅力的な場所へ仲間いりをし、中央線のアーティストになる。

2010年は、えり菜にとって大変な年だ。卒業し、(文字通り、芸大の大学院から)また、4月初旬の東京アートウィーク中に開催される2度目の個展をもって、大人のアートの世界へと送りだされるのだ。山本現代は期待しており、松井も一対の新しい大規模で驚くべき作品を約束している。こんなに若くしてあれほど特徴のある「見た目」を確立してしまうと、成長し続けるのはもちろん大変になる。しかし、彼女の驚異的かつ技術的な才能、鋭い分析心、そして奇抜で一風変わった想像力。この、他のどのアーティストより非常にまれな3つの組み合わせがあれば、私は、彼女は確実に実現できると思う。誰もえり菜が次に何をするのか予想できない。だが既に、観客は大勢いるのだ。



ADRIAN FAVELL
http://www.adrianfavell.com

みんなからのコメント

すごい、我々は何が見事なエリナ・マツイによって次か見ることに空腹です。このすばらしい前菜(エイドリアン)をありがとう。
コメンター
Mario A / 亜 真里男
2010/09/15 11:07

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レイバン ウェイファーラー
松井えり菜
投稿元 : レイバン ウェイファーラー / 2013年07月15日04:14

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