山形国際ドキュメンタリー映画祭 過去作品ライブラリーより

C. 山形国際ドキュメンタリー映画祭 過去作品ライブラリーより


C1. ピクチャー・オブ・ライト(1995 優秀賞)

監督:ピーター・メトラー
カナダ、スイス/1994/英語/カラー/35mm/83分
Picture of Light by Peter Mettler

カナダのマニトバ州チャーチヒルの冬は、-70℃にもなる寒さだ。そこで自然の崇高さとオーロラなどの壮観な現象を描くリリシズム溢れる本作品は、人間と自然の対立、近代芸術的技術を代表する映画のイメージの可能性などの問題を哲学的に追及する。自然を捕えようとするのは人間のうぬぼれに過ぎない。寒さでまぶたも開かないまま撮影すると、出来上がった映像は美しく鮮明で、それがいわば虚像であることを実感する。土地の住人たちの生活にも目を向けた、温かい人間性と好奇心に溢れた作品。

C2. アンダーグラウンド・オーケストラ(1999 審査員特別賞)
監督:エディ・ホニグマン  
オランダ/1997/フランス語、ルーマニア語、スペイン語/カラー/35mm/115分
The Underground Orchestra by Heddy Honigmann

パリの地下鉄構内、あるいは街角で、さまざまな音楽家が思い思いの楽器を演奏し、糧を得ている。どこの都会でも見慣れた光景であるが、彼らの多くは政治亡命者であり、不法移民である事実が音楽を奏でる背後に潜んでいる。1995年の本映画祭に出品された『メタル&メランコリー』で、ペルーのリマのタクシー運転手たちにカメラを向け、ラテンアメリカで必死に生きる庶民の姿を映像に引き出したエディ・ホニグマンは、異国の地で生き延びる人々の演奏、生活、ことばを画面に瑞々しく焼き付ける。クラシックやシャンソン、R&B、ワールド・ミュージックから始まってあらゆるジャンルに及ぶ演奏の素晴らしさと、音楽家たちが語る過酷な過去、決して楽ではない現在。ホニグマンの彼らをみつめる目は温かく共感に満ち溢れているが、映像は安易に情感に流れることなく、軽やかなスタイルを維持している。目と耳で堪能できる人間讃歌、この監督の最高作である。

C3.羊飼いのバラード
監督:エリッヒ・ラングヤール 
スイス/2002/スイス・ドイツ語、ドイツ語/カラー/35mm/124分
Shepherds’ Journey into the Third Millennium by Erich Langjahr

スイスの羊飼い一家の日々の営みをアルプスの山々を背景に描く。何百頭もの羊の群れ。雪のなか牧草を求めてさまよい、車が行き交う道路を横断する。小羊の出産とそれを見つめる妻や子ども、乳搾りやパン作りの毎日。世界最古の職業であるといわれる羊飼いの、実際は過酷な労働でもある生活を『アルプス・バラード』(映画祭’97コンペ作品)のラングヤール監督が見つめる。

C4.メランコリア 3つの部屋
監督:ピルヨ・ホンカサロ 
フィンランド、ドイツ、デンマーク、スウェーデン/2004/ロシア語、チェチェン語、アラビア語、フィンランド語/カラー、モノクロ/35mm/106分
The 3 Rooms of Melancholia by Pirjo Honkasalo

チェチェン紛争をめぐる子どもたちの生活を3つの場面から追う。ロシア連邦北西部サンクトペテルブルクの士官学校では幼い子どもたちが軍事教練に明け暮れている。廃墟と化したチェチェン共和国の首都グロズヌイでは親子の生活が引き裂かれ、隣国イングーシ共和国の難民キャンプでは子どもたちが空爆の音に怯えている。見守るように慈しむ眼差しの中に、見据えるべき未来を失った悲惨な状況下で生きる子どもたちの表情が浮かび上がる。

C5.アレンテージョ、めぐりあい (2007 山形市長賞)
監督:ピエール=マリー・グレ
ポルトガル、フランス/2006/ポルトガル語/カラー、モノクロ/ビデオ/105分
Encounters by Pierre-Marie Goulet

1950年代後半、ポルトガル現代詩の若き雄アントニオ・レイスと、ポルトガル民族音楽のコルシカ人研究者ミシェル・ジャコメッティ、そして映画監督のパウロ・ローシャたちが、ポルトガル南部アレンテージョ地方ペログアルダ村民の歌に魅せられて次々とその村を訪れた。パウロ・ローシャの映画を挿みながら、レイスたちが通った道や真紅の花で飾られた野原、静かな海と村のたたずまい、哀しみをたたえた歌や詩が情感たっぷり流れ、我々を清涼感で満たしてくれる。

山形国際ドキュメンタリー映画祭
1989 年の第一回目開催以来、今年で12 回目を迎えるアジア初の国際ドキュメンタリー映画祭。
隔年開催で、今年は10 月6 日~13 日に山形市内の複数の会場にて開催されます。


*山形国際ドキュメンタリー映画祭の作品解説は公式ウェブサイトから引用しています。

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