「リフレクション」 スゥ・ドーホー展

[タイトル]  リフレクション
[アーティスト名]  スゥ・ドーホー
[会期] 2005年1月22日 ~ 4月3日

Reflection/リフレクション

N.Y在住の韓国人アーティスト、スゥ・ドーホーは1994年以降、「ファブリック・アーキテクチャー」と称する薄い布を使用した作品を作り続けています。
これらの作品は、私たちを時間や空間そして、文化の中における移動を巡る旅へと誘います。
私たちは常に移動をしています。ひとつの場所から別の場所へ、あるいは町から町へ、そして国から国へと。
そして動きながらいつも何らかの境界線を横切っています。
この恒常的な空間移動の際に、ひとりの人間は果たして、どれだけの自分自身の空間を維持することができるのだろうか、という興味からこのシリーズは生まれました。
まるで蝉が自分の抜け殻を残してきたような、作家の等身大のN.Yのアパートやソウルの実家。
観客はこの作品を通り抜けながら、ガスレンジやドアノブといった些細な事柄に目を留め、このやわらかな建築を自分の家のように感じ、家にまつわる共通の記憶を追体験してきたのです。

新作『Reflection/リフレクション』では作家の生家の門が、テーマとして取り上げられています。
家のシリーズと同様、作家にとっては非常に個人的なモチーフではありますが、ここで「門」はより象徴的な意味を語りかけているようです。
門は家の外構えや通過地点に設けられた出入口であり、またそれは境界線のようにある場所とある場所を分断しつつ、出入りをコントロールする地点でもあります。
しかし門の向こう側は、常に外側ではなく、反対側から見れば内側となる、表裏一体の現象であるかもしれません。

スゥの人生における日常的儀式のあるふとした瞬間を象徴するような『Reflection/リフレクション』は、2つの門によって個人的な空間への出入りを表しています。また、それは個人が己の心象風景へとふいに降立ってゆく瞬間を促すのです。
そして、この建築をある特定の場所に復元してみせるということは、物理的、そして潜在的な現象の境界を読み解くきっかけを与えることになるでしょう。
また、この作品が示すこれらの解釈は、いわば作家の「過去と現在」という日常的儀式の継続ともいえるのではないでしょうか。
『Reflection/リフレクション』は、その意図や作用において瞑想的であるだけではなく、ある空間の中で、はっきりと定義され得るオブジェでもあります。
作品の方向性や位置付けの曖昧さは、私たちに作家の空間的記憶のスケッチをより一層甦らせるのです。

目の前に浮かび上がるブルーの門。
それは誰も触れることが出来ず、通り抜けることもできません。
この現実が、本来の機能を持ち合わせない建築的輪郭だけであればあるほど、蜃気楼のような透明さとディテールの細かさで、私たちに奇妙な現実感を与え続けるのです。
この両面性や危うさこそが『Reflection/リフレクション』で我々の通過する門であるといえるでしょう。

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