「めぐるめぐる 2015.6.25~7.31」 秋山さやか

【タイトル】 「めぐるめぐる 2015.6.25~7.31」
【アーティスト名】 秋山さやか
【期間】 2015年9月17日~2015年11月16日

フラヌール(遊歩者)たちは絵画や音楽、文章などさまざまな形でみずからの足跡を描きました。彼らの独創的な作品は地図のように、都市の姿を浮かび上がらせます。

現代美術作家の秋山さやかは、旅先を「あるく」行為と、針と糸を使って「縫う」という行為を通し、その軌跡を作品にしています。縫い目の表情や、糸の色の選択は、そのときの気持ちのあり方や揺らぎを表し、絵筆のように彼女自身の内面を描いています。今回メゾンエルメスのウィンドウディスプレイを手がけるにあたって、秋山は約一ヶ月間、銀座から程近い新橋に住み込み、毎日メゾンエルメスを訪ねました。銀座の喧騒のなか、時間も忘れて歩くと、街のディテールが浮かび上がります。たとえば、晴海通りに観光バスが何台も止まっていること、夜が更けるとウィンドウが消灯すること、数寄屋橋の交差点の近くにある喫茶店からウィンドウがよく見えること……。そうして、秋山独自の遊歩のストーリーが出来上がっていきました。

手元にはノーチラスの万年筆とアエログラム《グランダッシュ》を常に持ち歩いていました。横断歩道をわたりながら、雨の日に傘を差しながら、歩みと手元のどちらも止めることなく描きつづることで、文字が紙の上で模様のように現れていきます。その手紙は、銀座界隈のポストに日々投函され続けました。宛名は新橋に住む自分自身です。

右ウィンドウのソファに溢れかえる、おびただしい数の手紙は、秋山が自分に宛てた手紙です。左ウィンドウにある螺旋階段はまさに、銀座への道のりの一部のよう。こうして作家の抜け殻となった場所はウィンドウのなかに展開されることで、この周辺を足しげく巡っていた作家自身の存在をガラスの向こうに封じ込めているようです。

秋山さやか Sayaka Akiyama
1971年兵庫県生まれ。神奈川県在住。さまざまな土地で生活し、あるき、その軌跡を1針1針縫い付けたり線を描いたりする中から「時間のあしあと」を探ってゆく作品を制作。昨年は上海で開催した個展「もずのはや贄」にて、日々変化する自己の生活そのものをむき出しにしたインスタレーションを発表。新境地を切り開いた。

■過去のウィンドウ・ディスプレイ一覧

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