SHIMURABROS.

SHIMURABROS.はユカとケンタロウの姉弟によるアートユニット。日本を拠点に国際的な活動にも意欲的という、新しいタイプの日本の現代美術作家の好例だ。黒い衣装に身を包んだふたりは、ユーモアがあり、的確で、上品でもある。彼らの作品は彫刻やインスタレーション、前衛的映像など多様な要素を取り入れている。それらはスローモーションや分解のプロセスを経て、未来とノスタルジーを融合させたイメージの生成メカニズムをあらわにする。

聞き手:レイチェル・カボッソ


「Hibernation」2009年 900×700×300cm インスタレーション 
Special liquid crystal film、acrylic、iron、stainless steel、PC、control board
projector & speaker
『アートリンク in 横浜赤レンガ倉庫2009』

——『ヨコハマ国際映像祭』にはどのような経緯で参加することになったのでしょうか。

ケンタロウ 住友文彦ディレクターが以前に横浜赤レンガ倉庫で展示した 「Hibernation」(高さ9mの音と映像によるインスタレーション作品、2009年)を観て、今回声をかけてくれました。展示会場となった野毛山動物園は子供のころにも行ったことがあり、再び訪れて面白い場所だと思いました。

——出品作「MMY(Mouse Made in Yokohama)」もそうですが、映像によってイメージと実際の空間を結びつけることをたびたびされていますね。このインスタレーションを設置した場所と、ミッキーマウスというイコンを選んだことにも特に関係がありますか。

ケンタロウ この動物園には「ふれあい広場」というのがあり、以前はあらゆる種類の動物に触れることができたのですが、いまはハツカネズミなどの小動物だけです。物理的に動物と触れ合うことと、有名だけどエフェメラルなアニメのキャラクターであるミッキーマウスが(自分たちの中で)つながりました。展示室の一角に置かれたモニターに写るアニメーションは、デジタル処理によってひとコマごとにミッキーの姿を消しています。隣の別室に置かれた複数のスクリーンには、あるフォルムを映し出しています。それはミッキーマウスの体の輪郭のように見えますが、実際はネズミとカメラの部品と蚕を組み合わせて作ったイメージなんです。


「MMY : Mouse Made in YOKOHAMA」2009年 34x67x95 cm インスタレーション 
Special liquid crystal film, acrylic, stainless steel, mirror, pc, control board, projector & speaker 
『ヨコハマ国際映像祭2009』、野毛山動物園

ユカ 私たちにとって、横浜について言及することが重要でした。映像祭の第1回目ということもあり、市と関係のあるものを使うと面白いのではと思ったのです。横浜は日本における写真館発祥の地であり、シルクの貿易で栄えた場所でもあります。「MMY」ではふたつの蚕を、ネズミの体の輪郭とカメラの部品とで結びつけました。

ケンタロウ 生き物のメカニズムとカメラの構造とを関連づけたわけです。「動物」は動物園や、日本の文化やアニメにおいて重要な役割を果たしています。ミッキーを消すことで、時代の記録として撮影され、使われてきた動の違った実体が浮かび上がってきます。それが存在していた場所を観ることは、ある種の過去のイメージを観ることにもなるのです。

——おふたりの作品には、彫刻的な要素と、より伝統的なフィルム映写の要素という、形式的にはまったく異なる構造が用いられていますね。これらは相乗効果をもたらしているのでしょうか。それとも、物語を非直線的にするという意味で反作用をもたらしているのでしょうか。

ケンタロウ 例えば「SEKILALA」(3面のスクリーンに映写した作品)では、始まりと終わりが明確にはありません。観客は自分が見聞きしたものから独自に物語を解釈し、つなぎ合わせ、全体を理解します。3つの異なる物語に見えても、次第に何かを結びつけて、物語を紡いでいくのです。

ユカ 私たちの作品はすべて、映画に基づいています。ファッションブランド「The Viridi-anne」のプロジェクトから始まった「EICON」(巨大なスクリーンに、人物が歩いたり、ぶら下がったりする様子をスローモーションで映した作品)では、モデルの身体の動きはスラップスティックコメディ(体を張った喜劇映画)の動きと同じなんです。体の動きの特徴を表し、映画の形式的な特性を強調する作品をつくりたいと考えました。モデルの身体のわずかな動きをスローモーションで強調しているので、体の動きの記録(モーションキャプチャー)が作品の構成要素になっています。バスター・キートンやチャーリー・チャップリンの作品と似ているところがあります。


「EICON」2008年 220x108x10cm
Synchronized triple-projection on special, black surface screens, 30 min, coler, high-speed 
‘Breathe’  a part of The Viridi-anne’s Paris Collection / Gallery éof Paris

——日本と海外では、観客の鑑賞の仕方はかなり違いますか。

ユカ 「Ought to do and Ought not to do」を2003年にベルリン国際映画祭の「タレントキャンパス」という若手向けプログラムで上映したことが、とても重要な体験になりました。そこでヴィム・ヴェンダースのような多くの興味深い映画監督と出会ったことで、違う国でもっと作品を上映したいと思うようになりました。

日本の観客はとても礼儀正しいというか、静かで反応が少ないです。じっと座って観ているだけで作品の周りを歩き回ったりしません。パリで「EICON」を上映したとき、観客はスクリーンの後ろに回って実体を確かめようと触っていました。ウィーンのミュージアム・クォーターで「X-Ray Train」を上映したときは、観衆たちがスクリーンとスクリーンの間に入っていきました。なぜそうするのかある男性に聞いてみると、まるで電車が自分に向かって走ってくるようでとてもエキサイティングだと言っていました。実際に電車がそこにあるように感じたのだと思いますが、スクリーンをつかもうとする子供もいました。


「X-RAY TRAIN-LUMIÉRE BROS to SHIMURA BROS.」2008年 120x90x600cm、インスタレーション
Special liquid crystal film, iron, wire, PC,control board, projector, speaker, Railroad tie
Design Tide Main Exhibition 2007(東京)/Electrical Fantasista 2008(横浜)

ケンタロウ その男性はおそらく危機感のようなもの、つまり単なるイメージにすぎないのだけれど、電車が接近してくるスリルを感じたんですね。オーストリアでは作品について、バイオファニチャーは可能か否かといったような問題など、多くの議論をしました。

——制作活動において、影響を受けた人物はいますか。アート界の人か、それとも映画界からの方が多いでしょうか。

ケンタロウ 父親はハリウッド映画が好きだったので、子供の頃はシュワルツェネッガーの映画をたくさん観ていました。中学生のとき、NHKでルイス・ブニュエルの映画を取り上げた番組を見て、作品は理解できませんでしたが、以来よく観るようになり、とても刺激を受けました。それが映画を撮りたい、作ろうと思ったきっかけです。夏休みには科学博物館に電球を観に行っていましたね。ものの仕組みや歴史に強い関心を持っていました。この体験は、大人になってそういう仕組みを作り出すことに興味を持つようになったことにも、大きく影響していると思います。

ユカ 私は小学校のとき美術史の本を読んで、アートに惹かれていきました。横浜で育ったのですが、祖父の吉造は発明家であり、富士山が好きな画家でもありました。はじめは雪を被った冬の富士山が描かれた風景画が、次の日、私たちが学校から帰ってくると春の風景に変わっていたことがあり、絵画に対する考え方において影響を受けました。つまり、普通の絵画は静止していますが、祖父の絵は変化していたんです。静止しているものを変化させるという、この発想と映画とを結びつけられたので、映画作りには取り組みやすかったです。多くのメディアアートにはデジタル効果が用いられていますが、私は素材や色彩については常に絵画を描くときのように気を使っています。

——今後はどんな活動をしていきたいですか。

ユカ 機会があれば、リヨンで「X-Ray Train」」を上映したいですね。リュミエール兄弟生誕の地ですから。横浜とリヨンは姉妹都市なんですよ。

私たちの作品をひとつのカテゴリーに括るのは難しい。彫刻的で、コンセプチュアルでもあり、メディアとも関連があります。新作についても、アイディアはたくさんあります。最近は 情報を立体で表すことで、実体感のある映像を作りたいと思っています。3次元化したら、ほとんど本物に見えるような作品を見せたいと思っています。例えば、非現実であることがわかりきっている映画とは違った体験を作りたいのです。

ケンタロウ 映画を加工することで、現実に存在するものにしたい。映画が持つ時間の幅という形式を用いて、制作を楽しみ続けたいです。

シムラブロス
シムラユカ 1976年生まれ。多摩美術大学美術学部卒業。セントラル・セント・マーチンズ(ロンドン)修士課程修了。 シムラケンタロウ 1979年生まれ。東京工芸大学芸術学部映像学科卒業。 1999年より共同制作を始め、ヨーロッパ及び日本各地で展示、上映を行なう。横浜トリエンナーレ2008のBankARTアンダー35セクションにて「X-Ray Train Lumiere Bros to Shimurabros」を出品した。ファッションブランド「the Viridi-anne」のデザイナー岡庭智明による2009春夏コレクションのために「EICON」を制作。同年のはじめにはZAIM(横浜)で発表した「X-Ray Train」の最新バージョンをミュージアム・クウォーター(ウィーン)で展示。最新作「MMY (Mouse Made in Yokohama)」は11月29日まで野毛山動物園にてヨコハマ国際映像祭の参加作品として展示された。

<特集インデックスに戻る

←インタビュー目次へ

Copyrighted Image