スボード・グプタ

「ブーム」の冷静な観察者

取材・文:チャイタニャ・サンブラーニー
ポートレート:名和真紀子

国際的に熱狂的な支持を集めるスボード・グプタは、インド新世代アーティストの代表格だ。意欲にあふれる苦労人で、制作に展覧会にと休むことを知らない。ギャラリー、キュレーター、評論家からの依頼に引っ張りだこだが、インド・アートの世界的ブームが自分たちに与える影響を驚くほど冷静に見ている。


Installation view at Chalo! India: A New Era of Indian Art
Photo Watanabe Osamu
Courtesy Mori Art Museum

「関心が高まれば、もちろん恩恵もある。以前に比べて大きな作品を手がけられるようになったしね。経済的な余裕ができると、さらに大胆なこともできる。思考のスケールが広がるんだ。とはいえ、注文が増えればプレッシャーも大きくなる。急いで作品を作らなくちゃならないのは、作家にとっていいことじゃない。自分を見失ってしまうから」

市場の活況は作家にはまたとないチャンスだが、インドはアンバランスを抱えてもいる。その皮肉に直面しているのはグプタだけではない。

「5年前に比べると、ギャラリーの数はかなり増えた。でも、公共の場は整備されていない。いまだに民間のギャラリーに頼るしかない」

グプタは典型的な地方からの移住者だ。ビハール州の片田舎を出て、デリー近郊の新興都市、都市化が急速に進むグルガオンにやって来た。そう聞くと、80 年代のインド映画でおなじみの、大都会での成功を夢見る若者の物語を重ね合わせたくなる。アートの面でも、地方の美術学校から世界のヒノキ舞台へと登りつめた移住者だ。


Date by Date, 2008
Mixed media installation
Courtesy the artist and Hauser & Wirth Zürich
© 2008 Subodh Gupta
Installation view at Indian Highway, Serpentine Gallery London
Photo Sylvain Deleu

これまでの道程は、インドの一般家庭で目にするような品々や素材、慣習などを取り入れた作品群に透けて見える。だが、目下制作中の作品では、それも変わりつつあるようだ。

「これまで何年も、身の回りのものを使って作品化してきたけれど、変化が起こっているような気がする。子供時代の思い出や日常生活から発想することがなくなったんだ。故郷から都会へ、そして世界へと、様々な場所を渡り歩いてきたことが、作品の進化に影響を与えているんだね」

いまの地位にいるのはそうなるだけの条件がそろってのこと。グプタはその点を即座に指摘する。

「ジャスパー・ジョーンズがアメリカ国旗を描いたのは、とことんアメリカ人だったからだ。インド人の僕が国旗を描けば、あいつは国粋主義者で退屈だと言われるだろう。作品で日常生活を扱おうが、個人的な悩みや政治への懸念を表現しようが、ひたすら観念的になろうが、それはどうでもいい。ただ、アート言語に敏感でなければ、成功はおぼつかない」

初出:『ART iT 第22号』(2009年1月発売)

スボード・グプタ
1964 年、インド、ビハール州カガウル生まれ。グルガオン(デリー近郊)在住。彫刻や絵画や写真から、インスタレーション、ビデオ映像、パフォー マンスまで、作品に用いる媒体は多岐にわたる。2009年、『Indian Highway』 (ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー)と『チャロー! インディア』(東京の森美術館)に出品。また『テート・トライエニアル』(2月3日~4月26 日)にも出展した。

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