プラットフォーム2009

2009年9月3日(木)〜25日(金)
キムサ(機務司)、アートソンジェ・センター(ソウル)
http://www.platformseoul.org/

文:小崎哲哉(編集部)


カン・ジェグ「Prologue #3 Portrait Shot」2009年 
90x130cm インクジェットプリント

ソウル屈指のアートエリア、サムチョンドン(三清洞)で、2006年から毎年開催されているグループ展。今年は展示をほぼ1会場に絞り、その場所の力によって成功している。

主会場は「キムサ(機務司)」。韓国近代建築の父と呼ばれる朴吉龍(パク・ギルヨン)によって1928年に設計され、日本軍に軍用病院として使用された建物だ。解放後は韓国軍に接収され、昨年11月まで国軍機務司令部が本拠としていたが、12年に国立現代美術館ソウル分館となることが決まっている。本展は分館開館に先立つプレイベントと位置づけられ、約100名の参加作家の内、6割ほどは地元韓国勢が占めている。

新作を出品した作家の多くは、展覧会テーマの「記憶のボイド」に正面から取り組んでいる。カン・ジェグの「Prologue #3 Portrait Shot」は、白い紙を貼り付けて顔を隠した国軍兵士の写真。ジニー・ソの「Keep looking beyond」は、監獄を想起させる金網を用いたインスタレーション。宮永愛子の「The Door without a Knob」は、キムサで使われていた木製の扉を30枚並べ、郵便小包の箱にナフタリンのオブジェを収めたものだ。

史上初の南北直行便(00年)の映像を編集したパク・チャンギョンの「Flying」(05)や、ゾルゲ事件に材を取った米田知子の連作写真『The Parallel Lives of Others』(08)など既発表作も力強い。恐ろしかったのは、40cmほどの厚い壁に覆われ、拷問に使われたと噂される地下の一室を用いたクリスチャン・マークレーの「The Watch」(08)だ。饐えたような匂いとともに、癇に障る高速で時を刻む音が聞こえてくる。暗い室内に入って豆電球が淡く照らし出す椅子に近づくと、主のいない小さな腕時計だけが鎮座している……。

ゲシュタポやナチス親衛隊本部があった、ベルリンのトポグラフィー・オブ・テラーに匹敵するような場所だけに、こうした暗い作品がよく似合う。一方で、周辺住民にキムサの思い出を語らせたヤンアチの「Surveillance Radio: DSC Story」(新作)や、鏡を用いて無限迷宮的な空間を現出させたAVPDの「Stalker」(08)など、重い主題をほのかなユーモアと娯楽性で包んだ作品に救われた思いもした。ソウル駅の展示が好評だった昨年に続き、キュレーター、キム・ソンジョン(一部は片岡真実)の力業と言えるだろう。


ジニー・ソ「Keep looking beyond」2009年

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