中谷芙二子+dNA:MU

中谷芙二子+doubleNegatives Architecture:
MU : Mercurial Unfolding 偶成と展開
2009年9月24日 (木) – 10月31日 (土)
東京日仏学院
http://www.institut.jp/ja/evenements/9141

文:小崎哲哉(編集部)

「霧の彫刻家」として知られるアーティストと、「実験的建築ビジョン」を提示する建築グループとの協働作品。昨年の横浜トリエンナーレでは日本庭園の一角が舞台だったが、今回は東京日仏学院の中庭である。

芝生を張った300平米ほどの中庭にふたつの気象センサーを仕掛ける。センサーは風速、風向、気温、湿度などの環境データを取り込み、リアルタイムで9つのノズル群を制御して霧を噴出させる。実はソフトウェア内に「水銀の滴のようなバーチュアルターゲット」が設定されていて、風向きと風の強さに併せて仮想の庭を移動する。ターゲットがノズルに近づくと、ノズルのスイッチがオンになって霧が出るという仕組みだ。

「環境とのインタラクティビティや『演出』の加減について、中谷さんと徹底的に話し合いました。例えば、霧が美しく消えゆく様を見せるために10〜20分のループユニット中に何度かブレークを入れるんですが、その長さは中谷さんの経験値によるものです」とdoubleNegatives Architecture(dNA)を率いる市川創太は語る。わずかに傾斜した地形と、それに伴う風の変化が相まって、幻想的な光景は長時間見続けても見飽きない。

dNAは一貫して、トップダウンではなくボトムアップの自律的生成システムの構築と、建築や都市空間へのその応用を追究してきた。一方、雪の結晶の研究で知られ、世界で初めて人工雪の作成に成功した科学者を父に持つ中谷は、1970年の大阪万博以来、人工霧を用いた作品を発表し続けている。ボトムアップの自律的生成システムとは、例えば魚や鳥の群れが、あたかもひとつの生命体のように形を変えつつ動くような、あるいは初期胚中の細胞が、タンパク質を介した情報交換によって、自他を律しつつ皮膚や内臓や筋肉に分化していくようなシステムを指す。つまりここでは、自然の原理の人の手によるシミュレーションが、アーティストの協働によってきわめて重層的に行われている。

ロンドンやサンフランシスコとは違って、東京は霧とは縁が薄い都会である。その街に、しかも陽光あふれる白昼などに白い塊が突如として現れる。形を後に留めない一瞬の美を味わいながら、自然と人工の関係に思いを馳せるのは得難い体験だった。

http://nakaya.net/
http://doublenegatives.jp/

Photos: 2009 Nakaya Fujiko + doubleNegatives Architecture

※中谷芙二子『霧とあそぶ 28年目の《霧の彫刻》』展@宮城県美術館中庭
11月24日(火)〜11月27日(金):公開制作
11月28日(土)〜12月13日(日):展示公開
http://www.pref.miyagi.jp/bijyuTu/mmoa/ja/exhibition/20091124-s01-01.html

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