曹斐(ツァオ・フェイ): Live in RMB City

2009年10月27日(火)〜 12月20日(日)
資生堂ギャラリー
http://www.shiseido.co.jp/gallery/html/

文:小崎哲哉(編集部)


「Live in RMB City」2009年 
ビデオ(24分) © RMB City Courtesy the Artist and Vitamin Creative Space(広州/北京)

2007年のヴェネツィア・ビエンナーレ中国館で発表された、仮想世界「セカンドライフ」内に築いた仮想都市「人民城塞/RMB City」の発展形。作家のアバター(化身)「チャイナ・トレーシー」には、実生活を反映してか、男児「チャイナ・サン」が誕生している。

RMB(人民元)をその名に含む仮想都市には、中国共産党の総会が開かれる人民大会堂も、ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計した「鳥の巣」こと北京国家体育場も、アジア第1の高さを誇る上海テレビ塔(東方明珠電視塔)もみんなある。巨大な自転車の車輪やパンダがなぜか空中に浮かび、工場の煙突からは火煙がたなびき、工事現場には「和諧社会」などの文字が掲げられ、高層ビルの谷間をアバターたちが闊歩している。


「Live in RMB City」2009年 
ビデオ(24分) © RMB City Courtesy the Artist and Vitamin Creative Space(広州/北京)

曹斐はかつて、出身地・広州などの急激な近代化/都市化を主題にしたパフォーマンスや写真、ビデオなどを発表していた。グローバリゼーションの奔流に曝され、というよりも国家意思としてその奔流に身を投じた中国の現状を的確に捉え、醒めた目で、だが痛烈な批判を作品に込めていた。拠点を北京に移し、活動範囲を世界各国に広げ、制作・発表の場をネットにも求めたことにより、作品世界は普遍性を増している。生まれたばかりの人工都市はまだ発展途上だが、未来への希望と同時に、すでに多くの問題を内包している。


「No Lab in RMB City」2008年 
ビデオ(5分) Cao Fei collaboration with Map Office, © RMB City
Courtesy the artist and Vitamin Creative Space(広州/北京)


「Tonight Live with Paisley Beebe, Featuring China Tracy」2009年 
ビデオ(13分) © Treet.tv Courtesy Treet.tv

ニューオーリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」を主題とした作品と、それに伴って行われたセカンドライフTVによるチャイナ・トレーシーのインタビュー、それに人民城塞/RMB Cityを工学的に、そして風水的にどのように建築していったかを見せるメイキングビデオが面白い。だが、今回の白眉は新作の「Live in RMB City」だろう。新参者のチャイナ・サンが、母親に連れられて都市の中を彷徨する。仮想世界内に生を受け、アイデンティティクライシスに陥りそうな赤子に、実は中国アート界の著名人だったりするアバターたちが、現実と仮想の相違点、相似点について語りかける……。

惜しむらくは、日本語吹き替えをアマチュアが担当していることだろう。あえて素人に、ということかもしれないが、内容が哲学的に深いだけに、たどたどしい語り口はマイナスに作用したように思う。プロの声優が語るバージョンを、あらためて観てみたい。

RMB City
http://www.rmbcity.com/

ART iTフォトレポート:曹斐(ツァオ・フェイ) 資生堂ギャラリー
ART iTインタビュー:曹斐(ツァオ・フェイ)

Copyrighted Image