森村泰昌:なにものかへのレクイエム −戦場の頂上の芸術—

2010年3月11日(木)〜5月9日(日) 
東京都写真美術館(恵比寿)
http://syabi.com

文:山岸かおる


「なにものかへのレクイエム(記憶のパレード/1945年アメリカ)」2010年

森村は80年代半ばより泰西名画に扮するセルフポートレートの手法によって、西洋美術の模倣から始まる日本の美術表現の可能性を問い、東西の映画女優にもなりきって、彼女らに演じられるシンボルとしての女性像を浮き彫りにしてきた。そして今回の新シリーズ『なにものかへのレクイエム』では、写真における20世紀の歴史を象徴する男性たち——三島由紀夫やレーニン、ヒトラーなどの革命家から、デュシャンやウォーホルら芸術家まで——に扮し、過去の英雄たちのイメージを現在に召喚している。

会場でまず目につくのは、1970年に三島由紀夫が行った市ヶ谷駐屯地での演説を模したパフォーマンス映像である。檄文を読み終わった男の前に、聴衆の代わりに現在の公園の日常風景が広がるラストシーンは、演説行為そのものの虚しさと、受け手側は何も変わっていないという現実を暗示するかのようである。同様にレーニンに扮して行った演説パフォーマンスでも、現代の釜ヶ崎の日雇労働者たちを聴衆に据えることで主義・思想の無効性が強調される。これら革命家たちのポートレート写真(映像)では敢えて付け髭の跡などが残され、写真というメディアの虚構性、被写体に対する一般的なイメージが作為的なものであることに気づかされる。「海の幸・戦場の頂上の旗」の元イメージである、アメリカが勝利の国旗を立てる写真もまた作られた歴史イメージのひとつである。この映像作品の中で森村は一兵卒の姿になり、戦後を支えた名もなき男たちを主人公に据えた。20世紀という膨大なイメージの中からシーンを選ぶのに作家個人のリアリティに拠ったことで、作者と世代を異とする鑑賞者にはやや共感し難い側面も生んだ。だが一方で森村の生家が営んでいた茶屋を登場させるなど森村自身の個人史を重ね合わせ、ナマモノとしての自身の存在を露呈することで原点回帰を果たし、それが作品に強度も与えている。次に森村が何かに扮するのか、作家の描く未来像を待ちたい。

『森村泰昌:なにものかへのレクイエム—戦場の頂上の芸術』展開催日程

豊田市美術館
2010年6月26日(土)〜9月5日(日) 
http://www.museum.toyota.aichi.jp/

広島市現代美術館
2010年10月23日(土)〜2011年1月10日(月・祝) 
http://www.hcmca.cf.city.hiroshima.jp/

兵庫県立美術館
2011年1月18日(火)〜4月10日(日)

http://www.artm.pref.hyogo.jp/

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