第4号 建築

第4号 建築

ART iT第4号のテーマは「建築」。8月29日にスタートしたヴェネツィア・ビエンナーレ建築展に併せて、今年のビエンナーレに関わっている4人の建築家、妹島和世、西沢立衛、石上純也、藤本壮介のインタビューを特集として掲載する。
今回のインタビューは、建築専門誌ではなく、美術雑誌としての視点から、主に近年増えている建築にまつわる展覧会を建築家自身がどのように考えているか、さらに技術よりはコンセプトを中心に、建築家の考え方を探るものとなった。
アーティスティックディレクターである妹島が提唱するテーマ『People Meet in Architecture』の目指すものとは?妹島本人の言葉だけではなく、アドバイザーである西沢の言葉からも多くが読み取れるだろう。

かつての権力の象徴としての建築はとっくに姿を変え、現代建築は妹島が今回のビエンナーレとして掲げたテーマのように、もはや民主的多数決でもなく、多様性をも受け入れるものになった。今回インタビューをした4人の建築家は言葉やアプローチの違いこそあるが、使う人によって作られる建築という名の「場」の提供を行うことの重要性を共通認識として持っている。
個人の「アイデア」から作り上げられるものとしての建築は、建築という形をとっているが、提示されているものは「アイデア」「コンセプト」「プロセス」と言ったものだ。そして、彼らのフィールドである「建築」には長い歴史があり、その時間軸がもつ重厚さに自覚的でありつつ、新たな捉え方を模索し続けている。

話は変わるが、7月、8月と『瀬戸内国際芸術祭2010』『あいちトリエンナーレ2010』を回った。風景の違いこそあれ、どちらも古民家、古い町の商店やビルを展示会場の一部として使っており、こうした集合体への介入は、町おこしとしてのアートイベントには欠かせない要素になりつつあるのかもしれない。美術に留まらないコミュニケーションは確かに存在し、会話も弾み、心もすがすがしいものになる。消え行くニッポンを感じる体験。
しかし、そこに新しさはない。観客はそこにノスタルジーやエキゾチズムは感じるかもしれない。だがそれは現代美術が本来持つべき新しさのどこに繋がるのだろう。場が持つ雰囲気に合わせる、飲み込まれている作品はもはや現代美術ではなく、安っぽいエンタテイメントでしかないのだ。靴を脱がされ、昭和の急な階段を昇る儀式につきあわないと存在しない現代美術とは何だろうか。

インスタレーションはそもそもサイトスペシフィックなものだった。場所と密接に関わりあい、その場所の新たな発見や転換を促すものが作品でもあり、その発見は存在するものの普段は見えていない文脈や徴を浮き上がらせるものであった。作品と周辺環境の間には目に見えない会話が存在した。可視できるものが重要とは限らない、という意思がはっきり示されたのがコンセプチュアルアートの起源とも言えるし、その意思がすべてではないにしろ、インスタレーションという形をとって現れていた。その場所に行かないと見えないもの、何か発見があるもの、と理解してもよい。

その意味では、ビエンナーレにおける石上のプロジェクトはインスタレーションとして秀逸である。そもそも目に見えない。サイトスペシフィックでもある。崩壊したことがある種の伝説を与えたかもしれないが、それ自体が重要ではない。見せているものは「プロジェクト」であり、「アイデア」であり、建築家としての彼の作品、つまり建築ではない。7月に掲載した『森村泰昌モリエンナーレ/まねぶ美術史』のレビューでも言及したが、作家としての姿勢を見せることと、作品でない作品を見せることは両立し得ると考える。

クライアントがいなければ成立しない作品である建築と、それなしでも成立しうるが、故にコモディティと化してしまった現代美術作品。美術愛好者が多くを占める本誌で、建築家のインタビューを行うことが意図するのは、永遠に答えがでない美術と建築の差異を考えることではなく、社会の見方に影響を与えるクリエイティヴィティとは何かを問うことである。その問いを心に留めて、今号を読んでいただければ幸いである。

『ART iT』日本語版編集部

妹島和世 インタビュー
コミュニケーション、環境、感覚的空間

西沢立衛 インタビュー
社会、ランドスケープ、時代が生み出す建物

石上純也 インタビュー 
拡張する透明性

藤本壮介 インタビュー
身体が創り出す空間

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文/日埜直彦

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ハンス・ウルリッヒ・オブリストからホウ・ハンルゥへの手紙

フォトレポート

ヴェネツィア・ビエンナーレ建築展 2010
Palazzo delle Esposizioni della Biennale Part 1

ヴェネツィア・ビエンナーレ建築展 2010
Palazzo delle Esposizioni della Biennale Part 2

ヴェネツィア・ビエンナーレ建築展 2010
Arsenale

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日本人建築家インタビュー集

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