第10号 第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ

第10号 第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ

2011年6月、2年に一度のヴェネツィア・ビエンナーレがスタートした。

ビーチェ・クリーガーによる企画展は、美術が昔も今も変わらずヨーロッパ中心であったこと、そしてヨーロッパの美術史が世界の美術史であったことを見せるものであった。
彼女がインタビューで語るように、グローバル社会の中でも国際交流に参加したい各国の願いが確かに存在する。結果、それが国別パビリオンの増加につながっている。政府からの支援額の減少や、ヴェルニサージュ訪問者数の増加などに膨らむ予算の資金繰りに悩むビエンナーレ事務局にとっても、そうした新興国の存在はありがたく、アルゼンチンなど数ヶ国がアルセナーレに位置する建物の改装修復費を負担することで、新たに恒常的パビリオン(正確にはパビリオンスペース)を将来的に獲得することが決定している。
そうした国別パビリオンにおいて、国威発揚を行うパビリオンはほぼ皆無であった一方で、エキゾチズムを売りにするパビリオンは増えている。その中で、ポーランド館やドイツ館、アメリカ館といった、ナショナリズムに対する逆説的思考を促すパビリオンは観客の自発的な理解を促す上で興味深かった。

その一方で、ヴェネツィアへの取材を終え、日本社会と日本美術がヴェネツィアという一時的な現代美術の中心から、この数ヶ月の間に遠く離れてしまったような錯覚を覚えた。当然のことであるが、ヴェネツィアはいつものヴェネツィアであり、他の国にとってやはり日本の出来事は他人事でしかない。そのことを考えると、これまでに我々が同様に他国に対して無意識に行なってきた無関心を自省する。
自国を追われ、もしくは故郷を離れて制作する、またはふたつの祖国を持つアーティストの作品を見ながら、にわかペシミストとなった私たちの行く末について考えてしまった。

『ART iT』日本語版編集部

第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ: インデックス

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