2010年記憶に残るもの マッシミリアーノ・ジオーニ

2010年、マッシミリアーノ・ジオーニは第8回光州ビエンナーレ『10,000 Lives』(9月3日–11月7日)のアーティスティックディレクターを務めたほか、10月にはそれまで特別展担当ディレクターを務めていたニューヨークのニューミュージアムで新たにアソシエイトディレクターならびに展覧会担当ディレクターに任命された。また、ミラノのニコラ・トラサルディ財団のアーティスティックディレクターとして、イタリアの公的機関としては初めて、ポール・マッカーシーの網羅的な個展『Pig Island』(5月20日–7月4日)を企画し、書籍『What Good is the Moon? The Exhibitions of the Trussardi Foundation』(Hatje Cantz発行)の編集を手がけた。

ART iTはジオーニにこの一年間を振り返ってもらった。


Clockwise from top left: Theo Van Doesburg – Simultaneous Counter-Composition (1929-30). Serge Lifar and Alexandra Danilova in Appolon musagete, 1928, showing the first version of the costumes designed by Coco Chanel. Thomas Schütte – Grosser Respekt (1993-94),

ART iT 今年見た展覧会の中で、特に印象的なものを挙げてください。特に、ニューミュージアムでのあなた自身のプロジェクトや光州ビエンナーレに対する考え方に影響したものはありましたか? 内容の面でも、キュレーションのアプローチの面でも構いません。

マッシミリアーノ・ジオーニ(以下、MG) 光州ビエンナーレのための調査、特に大枠となった調査の大半は2010年より前に行いました。また、私が参考にした展覧会は1990年代、70年代、50年代と、ずっと以前に開催されたものが多くを占めます。
2010年に見た展覧会の中で特に素晴らしかったものとしては、例えばロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開催された『Diaghilev and the Golden Age of the Ballets Russes, 1909–1929』(2010年9月5日–2011年1月9日)が挙げられます。展示が美しく、調査も徹底されており、展覧会における伝統的な職人技と最先端技術を用いたプレゼンテーションとの組み合わせも新鮮でした。他にも重要な個展がいくつかありました。その中から適当に例を挙げると、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリーのリチャード・ハミルトン展(2010年3月3日–4月25日)、バーゼルのバイエラー財団のフェリックス・ゴンザレス=トレス展(『Specific Objects without Specific Form』2010年5月22日–8月29日)、ニューヨークのアーティスツ・スペースのダン・ヴォー展(『Autoerotic Asphyxiation』2010年9月15日–11月7日)、北京のユーレンス現代美術センターで上映された楊福東(ヤン・フードン)の35mmフィルム、ニューヨークのグッゲンハイム美術館のティノ・ セーガル展(2010年1月29日–3月10日)。ヨーロッパではミュンヘン、マドリッドの2カ所で大きな個展を開催したトーマス・シュッテにとって、大活躍の一年でした。また、テート・モダンでのテオ・ファン・ドースブルフ展(『Van Doesburg and the International Avant-Garde』2010年2月4日–5月16日)も素晴らしかったです。他にも言い忘れている展覧会がきっとたくさんあると思います。私にとっては、2010年はアジアで過ごす時間が長かったためヨーロッパでの展覧会まで足を運べないことが多く、本を通して美術を見る年でもありました。例えば、2010年はマリア・ラスニックにとって重要な一年だったのではないかと思います。特定の展覧会は思いつかないのですが、彼女についての優れた書籍をいくつか見ましたし、この一年の間で特に際立っていたように思えます。


Clockwise from top: Installation view of “Act Up New York” at White Columns, New York. Installation view of Charlotte Posenenske at Artists Space, New York. Installation view of “No Soul for Sale: A Festival of Independents” at Tate Modern, London.

ART iT この一年間、人々の美術作品の見方、そしてもちろん作品を作る際のアプローチに対して影響を与えた特定のテーマはありましたか。今年はどのような「会話」が特徴的だったのでしょうか。

MG ニューヨークでは必ず多くの会話、あるいは一部の会話においてお金が重要な話題となります。私にとって、ニューヨークから離れて特にアジアで長期間過ごすのはとても良い気分転換になりました。ニューヨークは本当に自己完結的なところです。不景気のせいで、お金がより中心的な話題となり、たくさんの議論を単純に二分させてしまいました。どのオークションウィークにおいてもアートマーケットが持ち堪えることができるかどうかという話になりましたし、毎回新記録が達成されました。ギャラリーは苦しみも成功も味わいました。でもそんなニューヨークでもノンプロフィットの空間や個人による取り組みが今でも重要であり続けていることが確認できました。2010年初頭にはXイニシアチブが、予算が殆どゼロにも関わらず本当に素晴らしい展覧会を一年間に渡っていくつも開催した末に閉鎖しました(白状すると、主宰者は私のガールフレンドのセシリア・アレマーニでした)。アンソニー・フーバーマンがひとつの会期を通してたったひとりの作家に集中する展示スペース、アーティスツ・インスティテュートを設立しました。ホワイト・コラムスはACT UP(力を解放するエイズ連合)の歴史を振り返る素晴らしい展覧会を開催しました(『ACT UP NEW YORK: Activism, Art, and the AIDS Crisis, 1987–1993』2010年9月9日–10月23日)。そしてアーティスツ・スペースはプログラムを変え、大幅な改装を行いました。このような形式張らない施設や独立団体こそがニューヨークのディスクールを形作っているのではないかと思います。2010年5月にテート・モダンは10周年を記念して開催した『No Soul For Sale』という、世界中の非営利団体を招いたフェスティバルを通してこの精神を祝福しようと試みました(『No Soul For Sale—A Festival of Independents』2010年5月14日–16日)。

ART iT 今年開催されたイベントで現代美術の世界的な動向についてあなたの捉え方を変えたものはありましたか? 2010年は楽観の年でしたか? それとも現代美術のはたらきについて懸念を引き起こしましたか?

MG 私にはこの質問は答えられません。ちょっと幅が広すぎますね。他の質問への答えに含まれているかもしれません。

ART iT 上記と同じ文脈で、あなたのこの一年の活動はどう評価しますか? 来年はどのような分野を探究されますか?

MG 最近、ニューミュージアムのアソシエイトディレクターに推薦されたので、2011年は展覧会の企画ばかりでなく美術館のスケジュールや全体の構成について考える年になります。それが多分一番大きな変化になるのではないでしょうか。また、来年はファッションブランドのトラサルディの100周年にあたります。トラサルディが主宰するトラサルディ財団をミラノで運営しているので、100周年の記念事業やいくつかの特別なプロジェクト、例えばこれまでミラノで企画してきた全ての展覧会を回顧するプロジェクトを予定しています。

レビュー 光州ビエンナーレ 2010(2010/09/20)

Image credits: 1) Van Doesburg – The Sidney and Harriet Janis Collection, 1967, 
Museum of Modern Art, New York; 2) Appolon musagete – Photo Sasha, © V&A Images; 3) Schütte – De Pont Museum voor Hedendaagse Kunt, Tilburg, photo Joaquín Cortés/Román Lores, courtesy Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofiá, Madrid. 4) “Act Up” – Courtesy White Columns, New York; 5) Posenenske – Photo Daniel Perez, courtesy Artists Space, New York; 6) “No Soul for Sale” – Tate Photography.

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