韓国美術家賞2017


Song Sanghee

韓国国立現代美術館は、現在開催中の展覧会『韓国美術家賞2017』の出品作家から、ソン・サンヒを韓国美術家賞の受賞者に選出した。ソンには賞金1,000万ウォン(約102万円)と自身の制作に関するドキュメンタリー映像の制作依頼の権利が与えられる。

ソン・サンヒ(1970年ソウル生まれ)は、ソウルとアムステルダムを拠点に活動している。韓国の中流家庭に生まれ何不自由なく暮らしてきた一般的な女性という自分自身の社会的立場から、韓国社会に構築された女性に対する既成概念を疑う作品を制作している。近年は、象徴的暴力によって疎外され、排除された人々の声を、映像や音楽、ドローイングやパフォーマンスなどさまざまなメディアを駆使して、再構成した物語に呼び起こし、過去と現在が複雑に重なる時空間を提示する映像インスタレーションも制作している。

『韓国美術家賞2017』には、韓国の民話に出てくる「アギ チャンス(赤子将帥)」の悲劇を引きながら、終末と救済、黙示録的な出来事、新たなはじまりのエネルギーといったテーマに取り組んだ3チャンネルの映像インスタレーション「Come Back Alive Baby」と、爆発を描いたイメージを分割して再構成したイメージのタイルと白いタイルで壁面を覆い、その壁面に埋め込んだスピーカーから複数の言語で語る声を出力したインスタレーション「This is the way the world ends not with a bang but a whimper」を発表。大文字の歴史で語られることのない人々に関する重層的なリサーチやインタビューを起点に、歴史への言及や神話を導入しながら、近現代社会の中で隠蔽されてきたものや痛ましい出来事を再構成した物語が持つ治癒的な効果などが評価された。


Song Sanghee Come Back Alive Baby (2017) 3 Channel video installation, 16’(installation view)


Song Sanghee This is the way the world ends not with a bang but a whimper (2017) Tile-wall installation 8 in- wall speakers, Dimension variable

1994年に梨花女子大学を修了したソン・サンヒは、2000年代に入ると釜山ビエンナーレ(2004)や光州ビエンナーレ(2006)で作品を発表。2006年から2007年にかけてアムステルダムのライクスアカデミーで学ぶ。2006年には第27回サンパウロ・ビエンナーレ、2007年にはリンダ・ノックリンとモーラ・レイリーが企画した『グローバル・フェミニズムズ:現代美術の新しい方向性』(ブルックリン美術館)にも参加。2008年にエルメス財団ミスルサン賞を受賞。その後も『ペパーミント・キャンディー:韓国現代美術』(韓国国立現代美術館、2009)や『グッド・モーニング、ミスター・オーウェル2014』(ナムジュン・パイク・アートセンター)などに出品。2015年にはソウルのアートスペース・プールにて個展『ザ・ストーリー・オブ・ビョンガンソェ2015』を開催している。

日本国内では、2003年にS-AIR(札幌アーティスト・イン・レジデンス)に滞在し、フリースペースPRAHAで個展を開催。翌年、『札幌アーティスト・イン・レジデンス展・国境を越えた美術の冒険』(北海道立近代美術館)に出品。2010年には国際芸術センター青森に滞在し、同センターの秋のアーティスト・イン・レジデンス展『吃驚』に出品。2015年に沖縄クリエイターズビレッジに滞在。2016年にはあいちトリエンナーレに参加。朝鮮の民俗芸能パンソリの演目「ビョンガンソェガ」を再解釈しつつ、歴史的事象や戦争遺跡、小説などから、さまざまな要素を引用し、物語を再構成した映像インスタレーション「ビョンガンソェの歌2016-人間性とは何か」を栄会場(旧明治屋ビル)で発表した。


Song Sanghee The Story of Byeongangsoe 2016: In Search of Humanity (2015/2016) in Aichi Triennale 2016 Photo: ART iT


Song Sanghee The Story of Byeongangsoe 2016: In Search of Humanity (2015/2016) in Aichi Triennale 2016 Photo: ART iT

韓国美術家賞は、2012年に韓国国立現代美術館とSBS文化基金が前身の「Artist of the Year」を引き継ぐ形で設立。同国の現代美術に重要な貢献をもたらし、制作活動を通じて将来的なヴィジョンを描き出す才能に溢れたアーティストの発掘、支援を目的としている。推薦委員に選ばれた候補者4名には、同美術館で開催する最終候補による展覧会のための新作制作費4,000万ウォン(約408万円)がSBS文化基金から支給される。6度目の開催となった今回の最終候補には、ソン・サンヒのほか、パク・ギョングン、ペク・ヒョンジン、サニー・キムが選出された。最終候補4名の新作が出品された展覧会『韓国美術家賞2017』は、韓国国立現代美術館ソウル館で2月18日まで開催している。

韓国美術家賞http://koreaartistprize.org/

韓国美術家賞2017
2017年9月13日(水)-2018年2月18日(日)
韓国国立現代美術館 ソウル館
http://www.mmca.go.kr/
出品作家:パク・ギョングン、ペク・ヒョンジン、ソン・サンヒ、サニー・キム


歴代受賞者および最終候補太字は受賞者)
2016|mixrice、キム・ウル、バク・スンウ、ハム・ギョンア
2015|オー・インファン、キム・キラ、ナ・ヒュン、ハ・テボム
2014|ノ・スンテク、ク・ドンヒ、キム・シニル、チャン・ジア
2013|コン・ソンフン、シン・ミギョン、チョ・へジョン、ハム・ヤンア
2012|ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ、ギム・ホンソック、イ・スギョン、イム・ミヌク

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