第9回恵比寿映像祭「マルチプルな未来」


フィオナ・タン『歴史の未来』2015年/95分/英語(日本語字幕付)

「映像とは何か?」という問いに毎年異なるテーマを掲げ、幅広い表現を通じて多角的な応答を試みてきた恵比寿映像祭が、昨年リニューアル・オープンを果たした東京都写真美術館を主会場に、日仏会館、ザ・ガーデンルーム、恵比寿ガーデンプレイス センター広場など、恵比寿周辺の複数の会場で開催される。

「マルチプルな未来」をテーマに掲げる本展では、複数性を有する映像やメディア技術の発達がもたらしている、私たちの身体やそれをとりまく社会の変化が指し示すものに関する考察を広げていく。

東京都写真美術館では、空間を一新した全館を利用して、展示、展示関連パフォーマンス、上映、シンポジウム、レクチャーなどが展開される。3階展示室では森村泰昌や澤田知子らの展示に加え、金氏徹平や笹本晃がインスタレーションを発表する。笹本は会期中にパフォーマンスを行ない、痕跡がインスタレーションの一部に追加される。2階ロビーには大型スクリーンを設置し、ガブリエラ・マンガノ&シルヴァーナ・マンガノが1920年代半ばにソ連で普及した政治的プロパガンダ演劇運動「青いブラウス」に触発されて制作した映像作品「そこはそこにない」を展示。2階展示室にはエティエンヌ=ジュール・マレーが多重露光によって連続する動きを捉えた19世紀の写真から、ダンサーの身体を写真からモーションキャプチャーまでそれぞれのテクノロジーを使って記録した石川卓磨、崟利子、オープンエンデッドグループ&ビル・T・ジョーンズなど、メディア技術の発達と身体の関係に焦点を当てる。地下1階展示室では、90年代からインターネット上の芸術活動に取り組んできたコルネリア・ゾルフランクによる「コモンズ」に関するリサーチ作品のほか、豊嶋康子、ルーシー・レイヴン、フォレンジック・アーキテクチャー、ロバート・ノース&アントワネット・デ・ヨングを紹介。同館1階の上映部門では、フィオナ・タンの本格的な初の劇映画『歴史の未来』やナンシー・D・ゲイツによるドキュメンタリー『スーザン・ソンタグについて』、1930年代のトーキーの音源の発見をきっかけに制作されたエッセイ・フィルム『ドリームズ・リワイヤード』(マヌ・ルクシュ、マルティン・ラインハルト、トーマス・トーデ)を日本初公開。映像制作集団空族の富田克也の最新作『バンコクナイツ』や、近未来日本を舞台にしたSF映画「日本零年三部作」で注目される長谷川億名の特集など、多彩な作品でプログラムを構成している。


笹本晃「デリケート・サイクル」のための習作イメージ、2016年[参考図版] Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo


ガブリエラ・マンガノ&シルヴァーナ・マンガノ「そこはそこにない」2015年、作家蔵 courtesy of Anna Schwartz Gallery, Melbourne


豊嶋康子『色調補正-1』(公開制作、府中市美術館)2005年、作家蔵[参考図版]

日仏会館では、写真美術館で『バンコクナイツ』を上映する空族が、スタジオ石、山口情報芸術センター[YCAM]と共同制作した「潜行一千里」を発表。同作は『バンコクナイツ』の主人公が辿った旅路を、映画とは別の角度から編み直したマルチ・チャンネルの映像インスタレーション。そのほか、リュミエール兄弟が発明したシネマトグラフの日本伝来をテーマとしたシンポジウムやアニエス・ヴァルダの『ジャック・ドゥミの少年期』の上映と講演を開催。

恵比寿ガーデンプレイスの中心部となるセンター広場では、金氏徹平の初の屋外大型作品「White Discharge(公園)」を展示。本作制作にはおおさか創造千島財団がスタジオ支援。2月21日には写真美術館2階ロビーにて、金氏と本作展示のキュレーターを務める木ノ下智恵子によるラウンジトークを実施。ザ・ガーデンルームでは2月24日にリン・ルー、入手杏奈、恩田晃、翌25日に恩田晃、山崎広太、宇治野宗輝によるライヴ・イヴェントを開催。

そのほか、地域連携プログラムとして、YEBISU GARDEN CINEMAではグザヴィエ・ドランのカンヌ国際映画祭グランプリ受賞作『Mommy/マミー』の上映、statementsではポール・シャリッツ展『The doors of perception』、アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]ではレジデント・アーティストの映像作品上映会、NADiff a/p/a/r/t内の各ギャラリーでの展覧会などが企画されている。

第9回恵比寿映像祭「マルチプルな未来」
2017年2月10日(金)-2月26日(日)
http://www.yebizo.com/
会場:東京都写真美術館、日仏会館、ザ・ガーデンルーム、恵比寿ガーデンプレイス センター広場、地域連携各所 ほか
開催時間:10:00-20:00(最終日2/26のみ18:00まで)
月休


金氏徹平「White Discharge(公園)」(オフサイト展示に向けた新作のイメージ)2016年


富田克也『バンコクナイツ』2016年

過去のテーマおよび参加アーティストへのインタビュー

2016|第8回「動いている庭」
ジョウ・タオ「観察を為すこと」

2015|第7回「惑星で会いましょう」
ダンカン・キャンベル「即興的な関係性に先行するもの」

2014|第6回「トゥルー・カラーズ」
ワン・ビン[王兵]「映画を持ち込むということ」
ラヴ・ディアス「すべては映画にたどり着く」

2013|第5回「パブリック⇄ダイアリー」
ヒト・スタヤル「回路|記録」

2012|第4回「映像のフィジカル」

2011|第3回「デイドリーム ビリーバー‼︎」

2010|第2回「歌をさがして」
ミン・ウォン「反復がもたらすシネマへの提案」

2009|第1回「オルタナティヴ・ヴィジョンズ」

2008|プレ・イヴェント「映像をめぐる7夜」

Copyrighted Image