第16回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展 日本館展示


©️ 貝島桃代

 

2017年9月29日、国際交流基金は今月半ばに実施された第16回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展の日本館展示のキュレーターの再選考に関する選考委員会の総評を発表した。なお、既報の通り、日本館キュレーターは、「東京発 建築民族誌-暮らしのためのガイドブックとプロジェクト」を提案した貝島桃代が務める。
国際交流基金は当初8月30日に記者会見を行ない、指名コンペティションに参加した6名の候補の中から、貝島桃代を日本館展示のキュレーターに選出したことを発表した。しかし、国際交流基金および選考委員会は、指名コンペ参加者を推薦し、コンペティションの審査を行なう選考委員に、貝島と共同で設計事務所を運営する塚本由晴がいることに対する見解を明らかにしていなかったため、指名コンペ参加者やメディアから選考プロセスへの質問、疑問を招くこととなった(※ 選考委員は国際交流基金が選考、依頼し、指名コンペ参加者は選考委員会からの推薦を受け国際交流基金が依頼)。9月14日、国際交流基金と選考委員会が選考プロセスの問題点とその対応を検討、当初の選考プロセスに社会通念上不適切な部分があったと判断し、同日、塚本を除く4名の選考委員により再選考を行ない、貝島桃代を改めて日本館キュレーターに選出した。

貝島桃代は1969年東京都生まれ。92年にアトリエ・ワンを塚本由晴とともに設立。住宅、公共建築、駅前広場などの設計に携わる一方で、「メイド・イン・トーキョー」や「ペットアーキテクチャー」などの建築を軸とした都市のフィールドワークを行なう。筑波大学芸術系准教授、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)建築振る舞い学教授を務めるほか、ハーバード大学デザイン大学院やチューリッヒ工科大学、デンマーク王立アカデミー、ライス大学(テキサス州)、デルフト工科大学、コロンビア大学で教鞭を執っている。

日本館の展示プラン「東京発 建築民族誌-暮らしのためのガイドブックとプロジェクト」では、産業ではなく生活者の視点から、都市を生態学的、建築的に把握する方法を、建築民族誌として捉え、暮らしのための社会的共有ツールとしてのガイドブックとして提示する。「メイド・イン・トーキョー」プロジェクトとしてアトリエ・ワンで取り組み、世界に影響を与えてきた都市観察の方法から引き出されたリサーチを集め、分析し、建築・都市論のエコロジカルな転回に弾みをつける議論のプラットフォームをつくりだし、21世紀の建築像の照射を試みる。展示構成は、①ガイドブックを収集、マッピング化、②ガイドブックの広がりを分析、提示、③建築ガイドブックから派生した実践について取材し、模型、映像などでレポート、④ピロティ部分に横丁を制作し、建築・都市論の議論の場としてのカフェバーの定期的運営と記録・発信の4つのセクションとなる予定。また、キュレーターチームを、ETHZ Studio Bow-Wow、スイス連邦工科大学チューリッヒ校建築理論教授、建築理論・建築史研究所所長のロラン・スタルダー、水戸芸術館現代美術センター学芸員の井関悠が務める。

選考委員会では、最初の選考においても再選考においても、貝島の「建築民族誌」というアプローチが持つ、建築の議論の方向をゼロからの創造ではなく、プラス・マイナスの遺産を遣りくりしながら如何にして未来を構想するかへとシフトさせる点や、日本の現代建築、都市環境の地域性に立脚しながら、地域を超えたグローバルな課題に応える点を評価した。そのほか、建築の背後にある寛容な精神や空間の読み替えにより誰もが享受できる長期的な価値という、総合ディレクターのグラフトンアーキテクツのふたりが掲げる「Freespace」のテーマに沿うという点も選出要因のひとつとなった。なお、貝島を含むコンペティション参加者の企画案およびコンペティションの講評、再選考の講評は、国際交流基金のウェブサイトに掲載されている(第16回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2018)日本館キュレーター 指名コンペティションの実施結果について)。なお、国際交流基金は今回の選考の経緯を踏まえ、制度面、体制面の見直し、制度やルール策定を含め、再発防止のための作業に取り組むと発表している。

 

第16回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展は、総合キュレーターのグラフトン・アーキテクツのイヴォンヌ・ファレル&シェリー・マクナマラが掲げる「Freespace」というテーマの下、ジャルディーニ、アルセナーレを中心にヴェネツィア市内各所を会場に開催される。

グラフトン・アーキテクツは、イヴォンヌ・ファレル&シェリー・マクナマラが1977年に設立したダブリンを拠点とする建築事務所。アイルランドを中心にイタリア、フランス、イギリスなどで建築を設計し、アイルランド建築協会主催の建築賞を何度も受賞している。ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展には、2002年、2012年、2016年と3度参加しており、2012年の第14回展ではペルーのリマ工科大学のプロジェクトをブラジルの建築家、パウロ・メンデス・ダ・ロシャの作品とともに発表し銀獅子賞を受賞。昨年、同建築で王立英国建築家協会[RIBA]国際賞を受賞している。そのほか、ともに1976年より教育に携わり、現在はメンドリシオ建築アカデミーの教授、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンの非常勤教授を務める。

 

第16回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展「Freespace」
2018年5月26日(土)-11月25日(日)
http://www.labiennale.org/en/architecture/2018
C:イヴォンヌ・ファレル&シェリー・マクナマラ

第16回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展 日本館
「東京発 建築民族誌-暮らしのためのガイドブックとプロジェクト」
主催/コミッショナー:独立行政法人国際交流基金
キュレーター:貝島桃代
キュレーターチーム:ETHZ Studio Bow-Wow、ロラン・スタルダー、井関悠
https://www.jpf.go.jp/j/project/culture/exhibit/international/venezia-biennale/arc/16/

 

 


 

選考委員会
松本透(国際展事業委員会委員長・長野県県民文化部信濃美術館整備担当参与)
金田充弘(東京藝術大学准教授)
倉方俊輔(大阪市立大学准教授)
曽我部昌史(神奈川大学教授)
塚本由晴(東京工業大学教授)※再選考には参加せず

コンペティション参加者企画案
阿部仁史(カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授)
「巨人の壁」

小渕祐介(東京大学大学院工学系研究室建築学専攻准教授)
「共鳴する空間」

貝島桃代(アトリエ・ワン、筑波大学芸術系准教授、スイス連邦工科大学チューリッヒ校建築振る舞い学教授)
「東京発 建築民俗誌 – 暮らしのためのガイドブックとプロジェクト」

田瀬理夫(株式会社プランタゴ代表取締役)
「建築は敷地を超えて緑をつなげるか?」

中島直人(東京大学工学系研究科都市工学専攻准教授)
「“Olympic City”-東京の文化資源をプロジェクトし、編集する」

橋本純(株式会社ハシモトオフィス代表取締役)
Freespace/「起こり」の場所/ヴェネチアの空中井戸広場

 

 


 

歴代コミッショナー、キュレーター
2016(第15回)|キュレーター:山名善之*
2014(第14回)|コミッショナー:太田佳代子
2012(第13回)|コミッショナー:伊東豊雄
2010(第12回)|コミッショナー:北山亘
2008(第11回)|コミッショナー:五十嵐太郎
2006(第10回)|コミッショナー:藤森照信
2004(第9回)|コミッショナー:森川嘉一郎
2002(第8回)|コミッショナー:磯崎新、岡崎乾二郎
2000(第7回)|コミッショナー:磯崎新、キュレーター:小池一子
1996(第6回)|コミッショナー:磯崎新
1991(第5回)|コミッショナー:川崎清
*第15回よりビエンナーレ財団の規則変更によりコミッショナーを国際交流基金が務める

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