ジェフ・ミルズ インタビュー

コンスタント・トラベラー
インタビュー/フランシス・有川


『スリープ・ウェイクス』のためのカヴァーアート, 2009年12月リリース.

革新的なテクノプロデューサーであり、DJのジェフ・ミルズへの独占インタビューとして、ART iTは彼の幅広い創作活動について話を聞いた。1980年代にラジオDJ、またデトロイト・テクノのアンダーグラウンド・レジスタンスのメンバーのひとりとして注目を浴び、1992年、自身のレーベルAxisをプロデューサー兼DJのロバート・フッドと共に立ち上げる。それ以来、映画の音楽を再構成するなど、プロジェクトの幅を拡張し続けている。2000年にはフリッツ・ラングの『メトロポリス』(1926)に新たなサウンドトラックをつけたものをフランスのポンピドゥー・センターで初上映し、2001年のバルセロナのソナー・フェスティバルのために作られたMonoを始めとする新しいメディアによるインスタレーションも制作している。幾多の名声の中、2007年にはフランスの文化省より芸術文化勲章のChevalier(騎士)の称号を授与している。


ジェフ・ミルズがサウンドトラックを再構成した『メトロポリス』(1927/2000)からのスチル.

ART iT フリッツ・ラングの『メトロポリス』のサウンドトラックの再構成は、あなたのキャリアにおいて異なるメディアを用いるプロジェクトへと繋がるターニングポイントになったと思います。このプロジェクトはどのように着想を得たのでしょうか。

JM 映画のサウンドトラックへの興味や欲望は90年代初頭、中頃にありました。ヨーロッパやアメリカにいた僕たちの多くは、音楽が単なるダンスミュージックというだけではない別のものとして適用されるべき時点にまで成熟していることに気がついていました。音楽は既に映画へと侵入できるだけの十分、創造的な進展を見せていましたが、先行例もなく、知る限りでは音楽を映画へと融合させる試みはほんの僅かしかありませんでした。僕たちは何年間も漠然となぜこういった状況なのか話し合っていましたが、ついに僕は何かをすべきだと決意しました。僕たちには人々がスクリーンや動画に見るものの形を音楽がいかに変えることができるのかを示す実例が必要だったのです。そこで僕はある映画を選び出し、その映画の音楽を作曲して上映したら、どうなるかというアイディアを思いついたのです。どちらかといえば、ひとつの例として使えると感じていました。簡潔な映画リストを書き出し、最終的に『メトロポリス』に落ち着きました。決まったのは僕の知り合いの知り合いが、この映画の権利を持っているミュンヘンの会社で働いている人を知っているということがわかったからですが。

ART iT それでは究極的に言えば、単純に権利関係の問題だったのでしょうか。

JM ビデオ屋で映画を買い、それを見ながら書いたメモを異なる部分へ分けて作曲をし、それらを繋ぎあわせたとすると、おそらくもっと訴えられにくかったと思います。なぜならそれこそ、僕たちがやったことですから。その後、『メトロポリス』の作品を見て、自身の映画に音楽をつけてほしいというパリの映画監督クレア・デニスといくつか作品を作り、それから、パリのMK2という映画会社とバスター・キートンの『キートンの恋愛三代記』(1923)のプロジェクトを行いました。現在は『ミクロの決死圏』(1966)と1919年の無声映画『デュ・バリー夫人』の音楽の再構成をパリのシネマテック・フランセーズのために取り組んでいます。


Above: Mono, (2002), インスタレーション. Below: Critical Arrangements, (2009), 『Le Futurisme à Paris』展(ポンピドゥーセンター, パリ)のためのビデオインスタレーション.

ART iT Monoというインスタレーションについてはどうでしょうか。作品を通して何かコミュニケートしようとしたことはありますか。

JM Monoは僕の最初のインスタレーションで、バルセロナ現代文化センター(CCCB)でソナー・フェスティバルの一環として展示しました。ソナーの背景にあるコンセプトが少し型にはまってきた頃だったので、オーガナイザーたちと共にもっと現代美術をプログラムに注入する必要があると感じていました。エレクトロニックミュージックにまったく依拠していないもの、より構造的なもの、他の何ものにも繋がらないアートそのもの、つまり、このフェスティバルを広げ、音楽ファンだけでなく、おそらくアートファンも魅了できるものが必要だと感じていました。そこで、『2001年宇宙の旅』(1968)のモノリスを参照にした巨大な一体構造を作るというアイディアを思いつきました。その構造物に出会う人々の知覚をなんらかの方法で調べるために光を使えるような、空からの光に満たされた部屋に配置されました。人々がその部屋で過ごしている間にそこに流れるサウンドトラックが展開していきます。僕たちはそれを撮影し、記録しました。

ART iT 今後もそのような作品は増えていくと思いますか。

JM はい。今年の後半は大体アートやインスタレーション、映画、動画プロジェクトに専念しています。2008年にもパリのポンピドゥー・センターで行われた『Le Futurisme à Paris (パリの未来派)』展にインスタレーションを展示しましたし、追求すべきたくさんの新しいアイディアを思いつきました。

ART iT 『スリーパー・ウェイクス』(2009)や『ジ・アカーランス』 (2010)といった最近のアルバムにあるコンセプトについて聞かせてください。

JM 『スリーパー・ウェイクス』はコンセプチュアルで時間を基調としたプロジェクトです。地球を離れ、宇宙へと新しいアイディアや世界を探しに出掛け、そこでの情報をここ東京にあるクラブWOMBの2009-2010カウントダウンイベントに持ち帰り、集まった人々と共有するというものです。4年間の宇宙の旅ではもちろん宇宙船の修理みたいな仕事を続けなければなりませんでした。『ジ・アカーランス』はルーティーンの宇宙遊泳中に宇宙線の嵐に閉じ込められ、宇宙船に戻れなくなったことを中心に展開しています。最初は気がつきませんでしたが、宇宙線を浴びたことで電気をコントロールする独特な能力を得ました。現在、そうした効果は『ジ・アカーランス』や次の『スリープ・ウェイクス』プロジェクトである「ザ・パワー」に現れています。

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ART iT テクノロジーの進歩は作品に影響していますか。

JM 人々が考えている程の影響はありません。僕はテクノロジー中毒ではないし、実際にはまったくテクノロジーを使わないことも多いです。人生を音楽に捧げるときに僕が持っておくべき最も価値あることは、必ずしもテクノロジーを使う能力ではなく、実際には音楽に対する考えであり、それをどう提示し、受け取るかなのだと10年程前に気がつきました。最初のアイディアはソフトウェア、コンピュータ、メインフレームを越えて絞り込まれても、そこにあり、広範囲に影響を及ぼすものでなければならない。そこで「スリープ・ウェイクス」や三文小説、SF映画、NASA、宇宙遊泳のようなアイディアを閃かせるものにより注意を払うようになりました。僕はコンピュータのソフトウェアそれ自体よりも、そういうことに興味があるんです。50通りの配列方法を知るよりも、人や宇宙に対する知識を拡げることに価値があることを今までに経験してきました。

ART iT 三文小説のようなものからインスピレーションを受けるために日常生活ではどれくらい時間を割いていますか。

JM 毎晩レコーディングに多くの時間を費やしていますが、日中はリサーチやいろいろなものを見たり、見つけたり、集めたりすることに使っています。イギリスやアメリカの年代物の本や映画のコレクションを持っています。これらは実際のキーボードや各機材よりも価値のあるものです。なぜなら、物の見方を保つことができれば、あとは異なるアプリケーションを使うだけで、自分のアイディアを音楽から文学へとフォーマットを簡単に変えられます。このようなものを集めることにはもっとたくさん理由がありますし、すべてのコレクションをできるだけ近くに置いておきたい。ギークという言葉は僕みたいな人を指す正式な言葉ではないでしょうか。

ART iT 2005年にブルー・ポテンシャルにて行われた野外コンサートでモンペリエ国立管弦楽団と共演しましたが、自分の音楽をオーケストラが演奏するというのはどうでしたか。

JM 最終的にはとてもよかったです。しかし、これは経験だけじゃなく、オーケストラと共演した他の人たちからも聞いて知っていたことですが、クラシックの音楽家は彼らの音楽とエレクトロニックミュージックは完全に別物だと考える方程式に自動的に入ってしまうという妥協が存在します。エレクトロニックミュージックはステレオ音場を満たすので、他のものが入る余地はまったくない。ヴァイオリンやクラリネットの繊細さはエレクトロニックミュージックのテクスチャーやサウンドの隣で失われてしまう。だからこそ冒頭から注意が必要なんです。こうしたことを越え、実際に僕たちは越えられましたが、オーケストラや指揮者にきちんと引き継げれば、音楽はそんなに違いがありませんし、演奏することに気負わないでしょう。彼らになぜミニマルなのかを説明する必要がありました。それは曲の構造を変えられないからではなく、エレクトロニックミュージックにおいてミニマリズムには観客に何度も何度も同じものを聞かせる状況を作り、同じものを聞くことで観客がリラックスし始める催眠効果のアーカイブを作る価値があるのです。僕はなぜこのようなやり方で、なぜ何度も繰り返し同じシークエンスを同じ音階で演奏するのかを説明しなければなりませんでした。

ART iT そのような理由で何かをエレクトロニックミュージックに変換したものはありますか。

JM あると思います。最も大きな障害は、おそらくそれを何と呼ぼうとも音楽にメッセージがある限り、異なるジャンルに翻訳することが可能だということを示しています。最初のアイディアに本質があれば、カントリーソングやゴスペルを作ろうが問題なく、そこで私たちはエレクトロニックミュージックが単なるアマチュアばかりのジャンルでも、手早く簡単にできるDIYの結果でもなく、思考を音符やコードに置き換え、ただランダムな選択を行い、全てをコンピュータに任せたものではないという意識を高め、より強い関心を呼び起こすことに成功したのだと思います。

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ART iT あなたはアーティストとしてコンセプチュアルなプロジェクトとエンタテイナーであることとのバランスをどのようにとっていますか。

JM 当然両者は影響しあい、そのバランスは常に変化します。1980年代後半から90年代後半は主にDJであることのパフォーマンスの側面、専門的な技術を学ぶこと、僕と同じ言語を話さない人に音楽を伝える方法、そのために必要な共通点を見つけることに重点を置いていました。もっと気軽に人々と話が出来るように、ミニマルテクノやミニマルな構造で音楽を解体しました。2000年以降、制作へと方向転換し、エレクトロニックミュージックでまだ成されてないことやコンセプチュアル・ミュージックのように更なる探究のために面白いと思ったことに特定していきました。1990年代初頭にコンセプチュアル・ミュージックに触れ、その後レイヴが来てすべてを一掃しました。それは確かにエレクトロニックミュージックの一部であるべき何かであり、僕が映画やエレクトロニックミュージックの新しい使用法により深く入っていった理由です。

ART iT 観客はあなたのやろうとしていることの多くを理解していると思いますか。

JM 例えば、これまで土星やその環のことを考えたことがない人であれば、中間部分はおそらく難しいだろうけど、僕の音楽をフォローしているほとんどの人は理解していると思います。でも、僕がそうした主題について音楽を作っていると一般的に理解してもらっていると考えています。なぜならそれらもいずれ僕らの生活の一部になるだろうと思っていますから。土星の環は何でできているのか、宇宙旅行はどのようなものなのかを理解すること、地球をただ離れて火星へ直行できるわけではなく、惑星を螺旋状にまわり、ある惑星へと放たれ、戻ってきて、円運動という概念や螺旋のイメージやそういったものと繋がる。僕は第一にそういったコンセプトを理解できる人々へ音楽を作っていて、彼らといっしょなら出来る限り速く、遠く移動し、音楽業界の構造の外へも行くことが可能です。僕は出来るだけたくさんのアルバムを作るので、人々が出来るだけ速くそれを消化してくれるように願っています。現在はそういった曲に取り組んでいます。

取材協力:コンバイン・代官山

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