卯城竜太(Chim↑Pom) インタビュー(3)

向こうからの視線
アンドリュー・マークル、大舘奈津子

I II

 


Chim↑Pom LIBERTAD (2017) All images: Unless otherwise noted © Chim↑Pom Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production

 

III.

 

ART iT 『耐え難きを耐え↑忍び難きを忍ぶ』(2015、Garter高円寺、以下『耐え難き展』)、『また明日も観てくれるかな?』に続いて、先日はシアターコモンズでのレクチャーパフォーマンス「Chim↑Pom劇場」がありましたが、これらはこれまでの活動を俯瞰的に振り返っているようにも見えましたし、自ら再解釈を試みているようにも見えました。

卯城竜太(以下、RU) 「Chim↑Pom劇場」については「レクチャーパフォーマンス」というお題通りなので、特に自ら再解釈を試みようとしたという感覚はないですね。演劇とか劇場は門外漢なんで。けれど、僕個人としては、主催者の方々がフェスティバル / トーキョーという公的なプロジェクトでの政治的限界を感じた末に、シアターコモンズを始めようという経緯や志になら、応えられるかなと引き受けました。違うジャンルということで新鮮さもあった。

『耐え難き展』は10周年だったので、まさに回顧という視点はありました。しかし、振り返ることによってタイムリーになるみたいな回顧展らしからぬ展示だったので、むしろ新作展と言った方がしっくりきます。東京都現代美術館の『おとなもこどもも考える ここはだれの場所?』での会田家の作品撤去騒動などがあったこともきっかけとなり、今まで自分たちが受けてきた規制と、それを受け止めてきた自分たちの姿を公開しようという試みでした。会田家問題を見ていて違和感があったのは、アーティストが被害者で、キュレーターが加害者、というキッパリとした二項対立として世間で騒がれていたことです。でも、規制の常套化の背景には、これまで交渉の結果何度も妥協を受け入れて続けてきてしまった、ヘタレなアーティストの姿勢も一因だったはずなんです。振り返ってみるとChim↑Pomの歴史はそんなクソみたいなケースばっかりだった。10周年を機に、そんなウチらの黒歴史を回顧しようというのが『耐え難き展』です。

『また明日も観てくれるかな?』は回顧とは違いますね。ほとんど新作で構成しましたし。東京をベースに活動してきたので、オリンピックに向けて変わりゆく東京の街、価値観の移り変わりなどを、20世紀の東京オリンピックとオーバーラップしながら考えました。スクラップ&ビルドがテーマだったので、展示作品はビルの建て壊しにともなってすべて破壊されました。時代に翻弄される姿、とさっき言ったけど、作品がビルと運命をともにしたことで、まさにそんな経緯を身にまとった感じですね。壊された作品はかけらを拾い集めて、再構成する予定です。

 


Chim↑Pom Enduring the Unendurable KI-AI 100 (2015)


Chim↑Pom Build-Burger (2016) in ”So see you again tomorrow, too?” the Kabukicho Promotion Association Building, Tokyo, 2016, Photo: Kenji Morita

 

ART iT 高円寺で行なうという『また明日も観てくれるかな?』の第二部はどういう展開になるのでしょうか。

RU これは建築プロジェクトとして、建築家の周防貴之さんとのコラボレーションというか二人展のような形になる予定です。歌舞伎町振興組合ビルの話を聞いたときに、それが建ったのが1964年のオリンピック直前だったということにそそられたんですよね。2012年に個展を開催した渋谷パルコの建て替えも含め、「オリンピックまでに建て直す」というスクラップ&ビルドの大きな流れをプロジェクトのコアに据えました。

そう考えると、自分たちが使っている高円寺のキタコレビルの存在の対照性がヤバかった。何なんだあの建物は、と。あまりにボロい戦前からのバラックなんですが、過去のいかなるスクラップ&ビルドのブームからも取り残されてきた。カルトの施設だったり風俗の施設だったりと独特な歴史を経て、今はカッティングエッジな文化施設のようになっている。とはいえすべてDIY、いろんな人たちによって手作りで増設されてきた、まさにクーロン城のような複雑な作りの建物なんです。歌舞伎町のビルとか渋谷パルコとか言う前に、真っ先に壊されてもおかしくない物件なんですよね。そんなあれこれを建物自体に盛り込もうと考えているんですが、そのパートナーとして同世代の建築家と協力したかった。建築業界はまさにスクラップ&ビルドの当事者ですし、何よりウチらの発想やスキルにはない面白いことを実現してくれそうです。

 


Chim↑Pom Coyote (2014) Photo: Adam Reich © Chim↑Pom, Courtesy of Friedman Benda Gallery, New York


Chim↑Pom Coyote (2014)

 

ART iT 無人島プロダクションでの個展『The other side』で発表する作品はメキシコとアメリカ合衆国との国境で制作した非常にタイムリーな作品ですね。

RU トランプの就任とリンクして、LAタイムズなどアメリカのメディアに多く取り上げられて、去年の夏に制作を始めた時の想定以上に、タイムリーなものにはなりましたね。制作に至った経緯は、『DFW』で境界の問題を扱ったり、エリイがアメリカに入国できなくなったという問題が発端です。

実際、2014年のニューヨークでのグループ展で、それに関する「コヨーテ」という作品を発表しました。メキシコやアメリカで「コヨーテ」と呼ばれる不法入国の斡旋人と、ヨーゼフ・ボイスのコヨーテと過ごすパフォーマンス作品「I love America, America loves me」(1974)にちなんだものです。「メキシコからコヨーテと一緒に入国できたら、コヨーテとニューヨークの展覧会場でパフォーマンスをする…」と、エリイがギャラリストに語るSkypeミーティングの映像と、パフォーマンスの準備のみを展示したインスタレーションです。会場には「70年代のニューヨークには野生動物もいたし、アーティストもいた。2014年の今は、動物もアーティストもいない」というステートメントを貼りました。これはニューヨークがアートの中心として捉えられていて、作家たちがキャリアのために移住する風潮への違和感がベースになっています。何しろエリイは行けないし。

ということで、サンディエゴの隣の街、メキシコのティファナという街に行きました。国境沿いをリサーチしていた中で、国境の壁を自分の家の壁として利用するように建てられた、一軒の家と出会ったんです。まさにアメリカに一番近い家ですよ。その家を訪ね、まずは庭に生えていた大きな木に、ツリーハウスを建設しました。庭ではいつも子供たちが遊んでいるんですが、庭の壁がまさに国境壁という凄いところです。ツリーハウスの起源は東南アジアだという説があり、遠くの敵を見晴らす監視塔だったらしいんですね。ということで、このツリーハウスもすぐそこのアメリカの監視塔と向き合っています。この作品は「U.S.A.ビジターセンター」と名付けました。「立ち入れないアメリカ」のメタファーです。立ち入りが制限された自然遺産などには、必ずビジターセンターがありますよね。この家がある「リベルタ」という地域は、アメリカに移り住もうと世界中から来た人が断念して移り住んだり、アメリカで強制退去させられた人とかが多い特殊な地域なんです。つまりこの「U.S.A.ビジターセンター」は、エリイやここの家族はもちろんのこと、隣人たちやアメリカに入れないすべての人に向けられています。とはいえ入るにはまずこの家をノックしなきゃなんですが。

で、この「U.S.A.ビジターセンター」のコンテンツとして相応しい作品を制作するためにティファナに戻ったのが去年末、歌舞伎町の展示が終わってからすぐでした。作品はこのツリーハウスからのみ鑑賞できる、という仕組みです。この地域をみんなと一緒に散歩しながらわかったのは、壁を飛び越える人もいるけど、ここにはトンネルも存在し、実はアメリカに抜けているんですよ。実際すぐそばで見つけたトンネルの前にいたおじさんは、「週2で向こうに行く」と言ってました。そこで考えたのは、メキシコ側とアメリカ側に穴をモチーフにした作品をひとつずつ作り、それぞれが作品として自立しながらもふたつでセットになる。そして、そのふたつをツリーハウスから見ることでその繋がりを考えるというプロジェクトです。

ということで、まずは庭の国境沿いに穴を掘りました。「The Grounds」という作品で、穴は国境壁の真下の土にまで続いています。アメリカの大地を地上からは踏めないエリイがその穴を通じて地下に潜り、アンダーグラウンドから壁の真下のアメリカ(もしくはメキシコのとも言える)の土を踏む、というアクションです。「月の足跡」同様に、一歩の足跡がその土地の到達困難さを演出するというか、ボーダーの存在をさらに明確化するような作品です。もうひとつの穴、というか作品は、アメリカ側に設置しました。「The Grounds」からそこまでトンネルが続き、しかしその後埋められた、という設定で、その穴を墓穴に見立てました。誰の墓かというと、その墓穴の先、つまり、その地域そのもの「リベルタ」です。リベルタっていうのは英語で言うと「リバティ(自由)」ですよね。「リバティ」というのは、アメリカにとって最も重要なコンセプトと言っても過言ではない。小銭に刻印されてたり、自由の女神(Statue of Liberty)の名前だったり。アメリカは昔から「ここに自由があるよ」と、移民にメッセージを放っていたわけです。だから、つまりこれはアメリカに建てた「自由の墓」です。FRP製の十字架とシャベル、穴で構成されていて、壁を越えてインストールしたのは、現地の人々とエリイとで結成した「チーム・リベルタ」です。当然アメリカに行けるメンバーはひとりもいませんでした。ちなみにツリーハウスは普通に子どもたちに大人気なので、今後とも彼らの居場所として使われていく予定です。

 


Chim↑Pom The Grounds (2017) Photo: Yuki Maeda

 

ART iT 作品の企画や実行は地元の美術機関を通して行なわれたのではないですか。

RU いや、企画も制作も全部自分たち。何人かのコレクターたちから若干の支援はもらいましたが、全製作費の5分の4はChim↑Pomが出しています。

 

ART iT 地元の美術館とかNPOを通していると言われても不思議ではないけれど、自分たちですべてやっているというのは驚きましたし、感動的ですらありますね。

RU うーん、だからそれも僕らにとっては当たり前のこと。特殊に見えるとしたら他のアーティストの問題だと思うんですよ、やはり。やりたい事があったらやるしかないじゃないですか。それに美術館を通してこういうことができるかというと超微妙で。いろんな機関と仕事をしてきた結果、いいプロジェクトになることもあるけど、そうじゃなかったこともたくさんあります。間に誰かが入るとコミュニケーションを任せがちになっちゃうし、その人が美術館の立場ならリスク回避が強まってしまう。あとはやっぱりがっつり現地の人たちと時間を過ごさないと、現場のリアリティにも気づきづらくなる。アーティストを信頼し、表現の自由を最大限尊重できる機関とはコラボレーションもできますが、自分たちでやってしまった方が良いものが出来る場合も多い。なにしろ自分たちで責任を取ればいいだけだから。それより今のところ美術館には、制作よりも発表や収蔵のときにこそ存在感を発揮してほしいと思ってます。

 

ART iT それは作品だけに限らず、『DFW』や『また明日も観てくれるかな?』といった展覧会にも言えますか。

RU もちろん。『DFW』も自主企画だから、エリイの知り合いにChim↑Pomの作品を買ってもらい、そのお金をChim↑Pomから実行委員会に寄付するところから始めました。『また明日も観てくれるかな?』はエリイの貯金そのものを使いました。オーガナイザーはエリイの夫の手塚マキさん。イベントのキュレーターは友達の古藤寛也(通称:鬼畜先輩)と、後輩作家の涌井智仁です。完全なグラスルーツですね。というか、そんな最近の話ではなく、僕らはそこに関しては、実は昔からそれほど変わっていません。2007年の「アイムボカン」も自腹だったし、それで行ったチャリティーオークションも自主企画。制作もメキシコ同様何の当てもなく現地を訪れるところからはじめました。世界中どこでも言えることですが、「オラ!」などと現地の言葉で挨拶さえできれば、みんな大抵歓迎して受け入れてくれるので、そこからコミュニケーションをとりながら一緒に制作していけます。震災後すぐに行った『REAL TIMES』展も同じ。開催した無人島プロダクションには、緊急的に持ち込みました。

2013年の旧日本銀行広島支店での『広島!!!!!』展も最大規模の個展だったからファンドレイジングが大変だった。まずは個展開催に賛同してくれた市内9箇所のお店(拠点になってくれたのはギャラリーG)で作品の即売展示会を開催し、市民やコレクターに買ってもらうことで開催資金を集めました。まさにオーディエンスとの共犯関係で作った感じ。そのプロセス含めて完璧な展覧会だったように思います。極め付けは丸木美術館で2011年に開催した個展ですが、あそこは本当にお金がなくて。とはいえ、当時の自分たちも資金はゼロで、制作費を稼ぐべくメンバーの水野くんが福島第一原発に出稼ぎに行って、そのギャラを使い込みました。「supported by 東京電力」です。

高円寺のアーティストランスペースを運営しているのも、インディペンデントな道を確保しておきたいからです。今は規制も厳しいし、ギャラリーもマーケット寄りなのが多い。けど、それを嘆いていても始まらないですしね。『耐え難き展』までは僕らも規制と向き合ってため息ついたりしてましたけど、今はそういう時期は過ぎました。それより他の方法を新しく実践していくことに頭を切り替えています。『DFW』や『また明日もまた観てくれるかな?』、今回の『The other side』などは、そういう意味では作品の結果だけでなく、そこに至るプロセスそのものにも、日本のアートの今後を考える上での大きな意味を見出しています。

 


 

Chim↑Pom
2005年8月、卯城竜太、林靖高、エリイ、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀の6名で結成したアーティストコレクティヴ。初期作品の「スーパーラット」から現在に至るまで、映像作品を中心に多様な方法を駆使して、彼ら自身の「リアリティ」を表現し、国内外の数多くの展覧会で発表している。近年は作品制作のみならず、東京・高円寺にアーティストランスペース「Garter」を開設したり、東京電力福島第一原発事故による帰還困難区域内を会場とした国際展『Don’t Follow the Wind』を発案、実行委員会形式で開催するなど、多岐にわたる活動を展開している。

結成10周年を迎えた2015年には、自らが経験してきた検閲や交渉や妥協をさらけ出した展覧会『堪え難きを堪え↑忍び難きを忍ぶ』をGarterで開催し、昨年は解体予定の歌舞伎町振興組合ビルを会場とした『また明日も観てくれるかな?』を開催など、既存の美術機関に頼らない展覧会も実現している。

Chim↑Pomhttp://chimpom.jp/

Copyrighted Image