足立正生 インタビュー(3)

連帯を想像/創造する
インタビュー / アンドリュー・マークル
Ⅰ. Ⅱ.


Ⅲ.

ART iT 現在のもうひとつの課題として、インターナショナリズムが挙げられると思います。日本の安倍政権だけでなく、アメリカはもちろん、ポーランドなど世界の数多くの国々で、インターナショナリズムよりもナショナリズムの方が盛り上がっています。

MA ホー・チ・ミンがフランスから帰国して、解放闘争をはじめたとき、学者で弁護士のホー・チ・ミンのことだから、きっとヨーロッパで勉強してきたものをみんなに教えてくれて、フランスを倒すことができるかもしれないと、大衆は彼の話を聞くために小さな場所に集まったのですが、そこでホー・チ・ミンが最初のテーマとして掲げたのは、たとえ偏狭なナショナリズムでもいいから、国を愛するという意味での最もナショナルな考えこそがあって初めて、隣国の人々と連帯を求めることができるということでした。つまり、最もナショナリズムを信じているものこそが、インターナショナルになれるという話をしたのです。大衆はそれに感銘を受けて、それまでほかの部族を嫌いだと言っていたけれど、実は相手も同じように思っていたのだということを理解できるようになった、という有名な談話がベトナムにあります。これに関して、私は若い頃はどちらかというと右翼少年でしたから理解できますね。つまり、最もナショナルなものを追求したら、どうしてもインターナショナリズムに行きついて、しかも、ほかの人もそうなのだということに気がつくのです。実際、それに気がつかないナショナリズムってどうなんだと思います。安倍が言っているナショナリズムが、本当のナショナリズムかと言えば、違います。あんなのはナショナリズムなんて勉強したこともなければ、インターナショナリズムを勉強したこともないでしょう。つまり、僕らは今こそ改めて問われているインターナショナリズムを押し出していく。ここで言うインターナショナリズムとは、ホー・チ・ミンの言葉のように、国境を挟んでいようが、海の向こうだろうが、隣に住んでいるおじさん、おばさん、あるいは同じような年の若者と、隔てなく生きていく上でどうしたらいいのか。それについて普通に話し合えるのがインターナショナリズムでしょう。これをG7伊勢志摩サミットのような国際会議で話し合えるかと考えてみても、おそらく、彼らはどうやって自分たちの利益を整合させて、イニシアティブやヘゲモニーを守っていくかということしか考えていないから、実はこんな会議は国際主義でもなんでもありません。だとすれば、彼らがサミットで主張しようとしている反テロ国際主義なんてまったくありえないということを明確にすればいいだけの話です。あんなものは利益同盟で、新自由主義の成れの果てのグローバリゼーションに過ぎず、自分たちのナショナリズムも口にできない。一方、僕らの主張してきた国際主義というのは、隣の兄ちゃん、姉ちゃん、おじさん、おばさんといっしょに、現代社会ってしんどいよね。と、傷を舐めあうだけでもいいわけです。こうしたことが本当のインターナショナリズムだと思いますね。長い間、30年ほど浦島太郎をやってきた結論だと思います。

ART iT しかし、現在のインターナショナリズムもしくはそのようなものには、若干の歪みが生じています。例えば、欧米の人たちが南米やアジアに連携をつくろうとすると、経済的なアンバランスがあって、妙に支配的な存在を抱えながら、植民地主義が引き続き継続されるような。

MA それは特に旧宗主国における問題ですね。まず、旧宗主国が自分たちのやったことを反省して、旧植民地だった国に何かをしてあげたことなんて、歴史を見たらどこにもないですよ。まず、最も酷いことをしたイギリスは、「引き上げた後のことは知りません。アメリカさんお任せします」と言って、アメリカにやらせることで、自分たちがそれまでにやってきたことをもう一回繰り返そうとしているだけです。彼らがそれをインターナショナリズムと呼びたいのであれば呼べばいいですが、それはマフィアの利益同盟に過ぎません。そのマフィア同盟に対して鉄槌を下すという形でISが動いているけれど、マフィア同盟はISを利用しているだけだから、あれは鉄槌には当てはまりません。だから、やはり人々の側から鉄槌を下さないとダメだろうなと思っています。

ART iT ISとインターナショナリズムの関係についてもう少し教えてください。

MA あんなのはインターナショナリズムもへったくれもないよ。宗教運動に見えるかもしれないけれど、ISは単に宗教運動の姿を借りてやろうとしているだけで中身はありません。当初は宗教運動としての側面も多少は持っていたけれど、英米の酷さに対する反抗という目的が強いものがアルカイダと合流して、さらに同じ目的を持つ旧イラクの軍官僚が大量に合流したのがISです。だから、わかりやすいというだけで、イスラム国をつくるっていうスローガンを掲げているけれど、そうなるまでの過程に「ダーウィッシュ」と呼ばれるイスラム原理主義運動の名を借りて活動する集団が、もう30, 40年前からありました。特にアフガン戦争以降、ボランティアで戦争に参加し、帰ってきた人たちがいて、僕らはその人たちをアラビア語でアフガーニと呼んでいました。彼らは利益になることならなんでもやります。そこで、アルカイダがもう一度、ジハード、聖戦主義をやるには原理原則を持たねばならないと提起しました。ただ、その聖戦主義は、どんなことをしても聖戦と言えるということもあって、本来の宗教運動から逸脱しています。もともとイラクのバース党の幹部だった人たちが、ISの過激な部分を担っていて、彼らはこのイスラム運動をどういう具合に自分たちの形態にしたらいいのかを考え続けてきた人たちです。つまり、それなりに戦略方針というものを持っていて、目覚めの時代とか、立ち上がりの時代など、7段階の戦略を持っています。現在は、領土拡大と思想拡散というふたつの戦術を展開する時代にあるなどと主張する。こういう具合にある種論理的に説明してみせると、そこに中身があるように見えるかもしれないけれど、実際には中身などありません。

ART iT 今後、中近東の状況はどのように変化していくと思いますか。

MA アルカイダが出てきたとき、アメリカやイギリスを中心にEUも含めて、必死にアルカイダを潰そうとしました。その結果、アルカイダが破門したISが台頭して、今度はISも国際社会で潰そうとしている。その隙に今度はイスラム平和同盟とかが出てくるでしょう。雨後のタケノコみたいに次から次へと現れるわけです。ですから、こうなってしまう根拠を欧米が止めない限り、こうしたことは続くでしょう。消耗戦ですからね。その間に多くのものが、何よりも人々の命が失われていく。このことを僕はテーマにしているのですね。だから、欧米が、イスラエルだけは何をやっても正しいのだと言うダブルスタンダードを止めない限り、欧米には何も言う権利はないでしょう。だって、それがある限り、こうした現象は続いていくわけですから。ISが「百年戦争」などと言っているのは、自分たちが潰されても、似たようなものがどんどん出てくるという意味です。

ART iT パレスチナ解放人民戦線(PFLP)は、もともと宗教原理主義ではなかったですよね。

MA マルクス・レーニン主義ですからね。それに元をただせば、パレスチナ解放に絞った活動をしていたので、ハマスのやり方を批判したり、同時にハマスと同等のやり方をするファタハを批判してきました。すると、批判ばかりしていたら硬直化してしまったので、「手を結べ」と言うようになりました。しかし、現在、イスラエルと組んでしまったマフムード・アッバース大統領率いるパレスチナ自治政府のせいで、パレスチナにおいてもPFLPのメンバーだとわかったら即逮捕されてしまいます。つまり、イスラエルとパレスチナ自治政府の保安共同というものがあって、パレスチナ自治政府が持っている情報がすべてイスラエル側に渡っていて、いつでも逮捕が可能になってしまっています。それによって、少年たちをPFLPのメンバーにしないよう脅すようなことが起こっていて、イスラエルと仲の良いファタハがコントロールしやすいようになっています。このような状況を安倍政権は支援しているのです。PFLPは最初の総選挙のときに自分たちは50人ぐらい通る予定だったにもかかわらず、24人しか通らず、残りの全部をハマスに持っていかれてしまいました。この結果を自分たちは解放闘争を長年やってきたにもかかわらず、人々の要求には応えきれていなかったと反省して、人々の声を聞き始めるようになったので、実はパレスチナの中ではPFLPの実力も回復してきています。それでも自治政府は、PFLPをイスラエルに売り渡しているのです。人々は、ハマスも自治政府もイスラエルを利するだけで何もやってくれない、結局、何にもパレスチナ解放に結びついていません。もう、ハマスも自治政府もあてにしない、第三極をつくろうと、非常におとなしいデモをしています。そうやって連帯したら、両方ともダメージを受けてしまいます。だから、その動きに対して、既存勢力が両側から攻撃するということを繰り返しているので、ちょうど最も難しい時期を迎えています。マルワン・バルグーティなど、第三極をまとめられる人もいますが、イスラエルはまずそういう人を逮捕してしまいます。それでも、トップを逮捕したとしても人々が変わることはありません。

ART iT 中東全体で見ると、今は思想的なレジスタンスではなくて、宗教原理主義的な運動としての動きが活発になっていますね。

MA アラブ諸国、もちろんパレスチナの中でも非常に活発な動きとしてあります。そうしたものが今、テロをはじめているけれど、実はそれを封じようとしない方がいいのです。やめろと言って、やめさせようとすればするほど、彼らのテロの意義が大きくなっていく。これがISの戦略です。だから、水際作戦でISに参加させないだとか、ISに参加した人を帰国させないとか言っているけれど、ヨーロッパ諸国は中東の人々にしていることと同じことをEU内でもやっているのだから、そこで抑圧されている人たちは、IS予備軍というより、もともとISやアルカイダがなくても出てきた抗う人々なのです。格差、賃金差、社会環境による差別、これはもう中東だけでなく、いまやヨーロッパでも徹底されているわけですから。それと切り離しておくために、水際作戦を行なうと言うけれど、そうではありません。もっと内側のところで彼らは怒りをふつふつとたぎらせている。つまり、移民に問題があるわけではないから、メルケルが述べているようにいくらでも入れたらいいのです。要は償いですよね。これまで欧米諸国が中東で何をやってきたかということを、欧米が反省しない限りこうした動きは続いていくでしょう。

足立正生|Masao Adachi
1939年福岡県生まれ。日本大学芸術学部映画学科在学中に自主制作した『椀』(1961)や『鎖陰』(1963)で脚光を浴びる。大学中退後に若松孝二の独立プロダクションに加わり、前衛的なピンク映画の脚本を手掛けるとともに、監督としても『堕胎』(1966)で商業デビューする。71年、カンヌ映画祭の帰路、若松とともにパレスチナに渡り、パレスチナ解放人民戦線のゲリラ隊に加わり共闘しつつ、その日常に迫ったドキュメンタリー『赤軍-PFLP・世界戦争宣言』(1971)を製作。帰国後は既存の劇場公開を拒否し、全国各地の工場や大学をまわる上映運動を行なう。74年に重信房子率いる日本赤軍に合流し、国際指名手配される。97年にレバノンで逮捕抑留され、2000年に刑期を満了した後、身柄を日本へ強制送還される。2006年に赤軍メンバーの岡本公三をモデルに描いた『幽閉者 テロリスト』を35年振りに監督し、日本での創作活動を再開。2016年、フランツ・カフカの『断食芸人』を原作に、同名映画を監督した。
映画『断食芸人』公式ウェブサイトhttps://danjikigeinin.wordpress.com/

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