『チェンマイ・ナウ!』

『チェンマイ ナウ!』
バンコク芸術文化センター
http://www.bacc.or.th/
2011年4月7日–6月19日

Installation view. Photo: ART iT

2006年末に開館したバンコク芸術文化センターは、バンコク中心部に位置し、現代美術や文化に関する展覧会を積極的に行っている。本展はチェンライ在住のアーティスト、アンクリット・アッチャリヤソーポンのキュレーションによるグループ展。地方都市チェンマイをベースに社会活動や文化活動に携わる12グループの現在を紹介している。独立運営をしているこの12のグループの活動領域は多岐にわたるが、いずれも現在活動中のグループであり、本展ではそのプロセスや試みを様々な形で視覚的に見せている。

チェンマイ・サンデー・サイクリングクラブ
会員はチェンマイ市内における地元のサイクリストの安全の確保と正しい道路標識の設置を求めている。自転車の普及を支援するため、安全確保と公的な指針の方向性を、写真、映像、サインの設置などで見せている。

ノース・フォレスト・スタジオ
チェンマイ大学講師で建築家のチュラポーン・ナンタパニッチは、自然とどのように共生して家を建てるかという問題を取り上げている。自らの生き方を通じて自然資源使用の問題について建築的パラダイムを通した折衷案を提案、チェンマイ大学の学生が制作したマケット、また「リビング・オン・バックパック」と名付けたアイデアも発表。

ドムキュメンタリー
日常生活におけるアートの普及を目指す。アートセンター内にアイスクリームパーラーを設置し、アートと日常の融合を試みる。

ランナ・バード・アンド・ネイチャー・コンサベーションクラブ
調査研究に基づいた自然保護活動を行なっている団体。毎年ドイ・インタノンエリアの鳥の数を調査するなど実施調査も行なっている。今回の展覧会で活動報告をすることで、一般の人々に自然保護への関心を深めてもらうことを狙う。
鳥のかぶりものおよび籠の書割を作り、実際に観客に鳥を演じてもらい、鳥の解放を呼びかける。

ザ・ランド・ファウンデーション
1998年にアーティストのリクリット・ティラヴァーニャとカミン・ラーチャイプラサートによって、チェンマイ郊外の村に設立された団体。もともと水田地帯であった場所にあるこの財団は、アートの社会参画、地域社会との交流および実験的な試みを行う場所を作り上げることを目的とし、資金集めを行なっている。今回の展覧会では、スタジオおよびインフラ整備のために必要な資金を集めるためにさまざまな作家に寄付を依頼し集めた作品を展示している。奈良美智のシルクスクリーン作品、ピエール・ユイグやトビアス・レーバーガーのドローイングのほか、ティラヴァーニャの油彩作品などが挙げられる。

展覧会に参加しているのは決してチェンマイで成功している団体ばかりではないが、それらの活動のプロセスを丁寧に見せることで、チェンマイが現在直面する問題——それはしばしば世界のどこでも起こりうる問題でもある——とその解決策を見つけようとする団体が持つエネルギーを可視化する。学術的、社会的には詰めが甘く見えるような活動は一方でその緩さ故に開かれたものとして見えるのも好感が持てた。
とかく、資料映像の繰り返しで退屈になりがちな活動紹介の展覧会とはまったく様相を異にするもので、視覚的なインスタレーションの面白さや、観客参加型の展示も飽きさせない。個々の団体の展示のクオリティというよりは、活動も、展示もバラエティに富むことで、チェンマイの社会変革への希望——まだ道半ばではあるが——が見て取れる展覧会となっている。これはキュレーターをつとめたアンクリット・アッチャリヤソーポンの手腕が十分に発揮されているからだといえよう。アーティストの作品を展示している美術展ではなく、それぞれの「プロジェクト」や「作品」のクオリティは決して高くないが、現実を写し、多様性を伝えるというこの展覧会は美術が持つ開かれた精神を具現しており、その点で大きな意義を持っている。

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