艾未未のことば 15:インターネットが私の国だ

インターネットが私の国だ
翻訳 / 牧陽一
ドイツの新聞「Der Tagesspiegel(ターゲスシュピーゲル)」(2015年8月7日)より*1

Tagesspiegel(以下、TS) 4年も経ってやっと国外に旅行できるようになりましたね。中国政府からの旅行の禁止と弾圧はあなたのアートにどんな結果をもたらしましたか。

艾未未(以下、AWW) 今話すのは、まだ時期尚早だろうね。私のアートはどれも創作する環境条件と一体化している。同時に私も大バカ者だからね。私にとって、あるものは永遠に変わらない。私の世界への理解、私の精神状態、私の価値観、それは人権や言論の自由に対する理念にも及ぶだろうね。また相互の理解やコミュニケーションを信じることも私は放棄しない。

TS 中国の状況は非常に矛盾していますね。あなたがパスポートを奪い返したということは、もう自由になったのでしょう。でも同時に200人以上の人権弁護士や人権活動家が逮捕され、何人かは依然として鉄格子の向こう側に座らされています。

AWW 状況は複雑だ。4年前に私を捕まえてから、その後、次は弁護士らを捕まえたと言うことではない。こういうことは以前にもあったし、これからも起こり得るだろう。起訴された人、捕まった人の多くを私は知っているが、彼らは一度も罪を犯してはいない。私と同様で何人かの人は有罪判決を受けてはいない。ならば、彼らを容疑者のまま、取り調べのために拘束し続けることを願うしかない。これが奴らの策略だ。我々を恐怖に陥れて、権力の安定を維持している。

TS 中国は正規の裁判秩序を使って、あたかも法治国家であるかのように見せかけているのではないですか。

AWW 一見したところそう見えるが、実際は全然法治には至っていない。以前と変わらず、どこでも何でもしたい放題、これから何が起こるのか全く予期できない。

TS 私たちは中国人を助ける前に、まずはここで難民を救うべきでしょうか。

AWW 問題がどこで起ころうがすべては同じ原因だとしか私には言えない。人権への尊重が欠如しているのだ。この星ではその尊重の必要性を認識しなければ、我々は存在さえできない。

TS 再び中国へ戻る道が開かれていることが、あなたにとってどうしてそんなに重要なのですか。

AWW 中国に問題があれば私はその問題の一部分だ。そしてそこに参与したい。私はそれを回避しない。もし回避することがあれば、私がやむを得ない状況下に置かれている場合だけだ。私はここに留まる気など最初からない。私の問題は絡み合っている。中国のみんなと私の国は私の心に繋がっている。断ち切るのは容易なことではない。

TS あなたは巨大な脅迫を受けている。あなたはどうやってその恐怖感から逃れるのですか?

AWW 恐怖はずっと存在し続けている。だが90パーセントの恐怖は交流と知識と信頼に欠けていることから来るのだ。これらが増せば恐怖も薄らぐ。私に圧力をかけて私を支配しようとした連中は、今では私同様に私の事を恐れてはいまい。なぜなら彼らは私が何も隠蔽しない開放的な人間だという事が分かったからだ。彼らが私の精神的な立場や私の原則を明確に分かったからだ。だから私の相手への理解もいくらかまともになった。だから恐怖も薄らいできた。

TS どういうことでしょうか?今はいくらかまともになったとは、どういう意味ですか?

AWW (笑って)オーケー、ふたつの側面がある。まず理解できないことはずっと変わらずにある。だが私は努力して解ろうとしている。第二に私は悟ったのだ。警察も役人も私を理解したいという望みを持っている。だからコミュニケーションの基礎ができたと言うことだ。

TS あなたの父親は著名な詩人で、文革中、苦難に見舞われ、その後は沈黙を強いられました。

AWW 彼の世代は深刻な状況を経験した。しかもなぜそうなったのかも理解できない。冷戦期、この国家は巨大な監獄のようなものだった。閉鎖された世界だ。できることと言えば死を待つことだけだった。今は違う。グローバル化されてインターネットがあるからだ。私はずっとコミュニケーションの力を堅く信じている。私がニューヨークに何年も住んで英語がしゃべれて、現代アートが解っていることとも関係があるだろう。しかも私はインターネットが好きだし、見通しも明るいと思う。インターネットこそが私の国だ。

TS あなたの息子はベルリンの学校に行っていますね。中国の教育体制を信頼できないのですか?

AWW ヒューマニズムの知識を伝授していく能力を完全に失っている。そこでは教える内容を若い人たちのために構造化することさえできていない。彼ら若者に自己判断の形成を教えるべきなのに、それが洗脳にすり替わっている。若者に実用的な技能しか教えない。中国の教育体制は多くの若者の知恵、彼らの情熱、彼らの勇気を犠牲にしている。これらは人を幸せにする基本だというのに。私がどうしてこんな教育体制を信頼できるのだ。これはまるでヒューマニズムへの災難ではないか。同様に多くの世代に影響した巨大な災禍だ。絶望的だ。

TS 2014年マルティン・グロピウス・バウでの展覧会*2 では、明らかに政治的な色彩を持つアートを展示しましたね。拘留されていた部屋、手錠、監視カメラ…

AWW 私は政治的なアートとは呼ばない。個人的なアートだ。これらの作品は私個人、私の生活、私の感情、私の経験と関係がある。それは必然的なものだ。私は私の身に降りかかった事柄を何度も繰り返す。まるで先生が学生に「もう一度復唱しなさい」と言うようなものだ。

TS イギリスは最初あなたに半年のビザを出すのを拒否しました。テレサ・メイ内務大臣はそのあと謝罪しましたね。あなたは彼女の謝罪を受け入れますか?*3

AWW もちろんだ。私は相互を尊重するものなら如何なるコミュニケーションも受け入れる。でも拒否の知らせを受け取った時には、冗談かと思ったよ。あんなに暗く長いトンネルを潜ってきて、やっと光が見えたのに、世界のもう一方がすぐさま光をもみ消したのだからね。私がパスポートを奪い返したその時に私のビザ発行が拒否された。私も自由世界でも問題にぶち当たることぐらい解っていたが、こんなに早くやってくるなんて勘弁してほしいよ。


*1 Ai Weiwei im Tagesspiegel-Interview “Das Netz ist meine Nation” 网络是我的国度
本文翻訳については2016年4月24日に艾未未氏に承諾を得た。

*2『Ai Weiwei – Evidence』マルティン・グロピウス・バウ、2014年4月3日-7月7日

*3 「ニューズウィーク英国が艾未未氏に6カ月ビザ、内相指示で発給拒否から一転」2015年8月3日

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