対談:艾未未 x ろくでなし子

対談:艾未未 x ろくでなし子
企画、文、訳 / 牧陽一

なぜ北京へ?

2015年6月9日から、3泊4日の日程で北京へ旅行した。
まず、ろくでなし子さんに、彼女の1年も続く憂鬱な裁判期間の中で少し気晴らしをして欲しかった、そして楽しんで欲しかった。艾未未さんにそれを伝えると、彼から「私もぜひ早く会いたい」という返事があった。ろくでなし子さんには3月から何度かお会いして、5月には埼玉大学で教養学部主催の講演会も実施し、そうしたことを通じて、彼女が誠実に表現の自由を求めているアーティストであることは十分に承知していた。だからこそ、20年来の友人に会ってほしいと思った。アイさんも猥褻画像伝播罪の容疑がかけられたことがある。監獄に81日間も拘留された。同じ理不尽な拘束にあったもの同士ではないか。
そして、まんこごときで逮捕拘留される日本と、まんこごときでは逮捕されないが、政府批判をちょっとでも囁けば逮捕される中国を対照的に捉えることができた。一見、大きな違いにも見えるが、実は政権にとっては猥褻も反政府も確実に繋がっている。どちらの罪にしろ、権力者が邪魔者を抹殺するために援用されるのだ。中国と日本の状況はそう大きな開きがあるのではなく、日本の安倍政権も独裁政権に限りなく近い。表現の自由の規制は言論の自由の規制と繋がっているはずだ。
そしてもう一点は係争中であっても海外旅行できるということを示したかった。ろくでなし子さんは裁判の合間を縫って北京へ行くことができた。艾未未さんは脱税容疑で係争中かもしれないが、パスポートを奪われ、海外へ出られない。この事実を確認することにより、中国政府は人権を蹂躙しているということを明確に示すことができた。渡航前に、埼玉大学教養学部はろくでなし子さんの講演会を主催した。係争中であるからこそ議論の場を提供し、皆で思考することが大学の存在意義に他ならないからだ。同僚の多くは専門領域が違うが「是非ともろくでなし子さんに話して欲しい」と好意的だった。
見ても全く欲情、劣情をもよおさない作品を猥褻と呼べるのだろうか?私は何をやってもいいと言っているのでなく、現実に合わない古いルールは変えていかなければいけないと考えているだけだ。私は裁判所に意見書を書いた(近く公表したい)。ろくでなし子さんは真剣に表現の自由を考え、新しいアートの領域を志向している。それはアーティストが持つべき姿勢だ。支援しなければいけない。アートを研究する私が彼女を支援しないならば、私にアートを語る資格はない。美術評論家連盟、劇作家連盟など多くの芸術関係団体も支援している。私はろくでなし子さんが無罪となり、検察のほうが裁判に負けるだろうと思っている。負けていいのである。社会を進歩させていくために、負けるべきなのだ。
私はパルコキノシタというアーティストが好きだ。彼に初めて会ったのは2000年の光州ビエンナーレで、当時彼は呼ばれてもいない国際展に出向いてハンディカラオケで歌うパフォーマンスをしていた。アートなんて美術館でおとなしくやっている様なものじゃない、選ばれるなどという受動的なものではない、自発的な表現であるはずだ。読売アンデパンダン展にも通じる外郭から大衆化する方法に説得力があった。彼の名作漫画『漂流教師』でも作家のやさしくもろい心に感銘を受けた。そのパルコキノシタさんがいち早くろくでなし子さんへの支持を示していた。ときどき、艾未未に間違えられるパルコさんがきっかけで、ろくでなし子さんの「まんボート」を知り、昨年2014年9月に艾未未さんにも紹介した。アイさんもこの作品が大好きなようで、ろくでなし子著『ワイセツって何ですか?』でもその見開きページを開いていた。まんこが自由に大海を行く(たまんがわだが)。すばらしい作品ではないか。
様々な存在の全てが自由に表現していく社会を実現すること―そのための出会いではなかっただろうか?

艾未未とろくでなし子 対談
2015年6月11日、北京市内のホテルにて収録

艾未未(以下、AWW) まんこってフルーツの芒果(マンゴー)だね。

(艾未未『アイ・ウェイウェイ スタイル』(2014年、牧陽一編著訳、勉誠出版)、ろくでなし子『ワイセツって何ですか?』(2015年、金曜日)、それぞれ自著にサインをして交換』)

ろくでなし子(以下、RK) はじめまして。お会いできて幸いです。

AWW 私は会いたかっただけではなく、きみのことをずっと恋しく想っていたよ。

RK うれしい!私は映画『アイ・ウェイウェイは謝らない』(2012年)を見てずいぶん励まされました。私も謝らないですから。

AWW そうだね。君はとても勇敢だ。アーティストとしてばかりか女性としても勇敢だ。

RK ありがとうございます。こういうとおこがましく聞こえるかもしれませんが、抑圧されたら単にそれに対して怒るのではなくて、ユーモアや笑いに転換する、そんな艾さんのやり方に親近感を覚えます。なので、同じように行動していたのですが、私の2度目の逮捕は、警察を馬鹿にするような漫画を描いたからではないかと思っています。

AWW その行為は間違っていないし、とてもいい。

RK 日本ではSNSやツイッターで警察に対して文句を言ったり、馬鹿にしたりできますが、中国ではそれさえできないということを知り、とてもショックでした。言論統制されているということですよね。そういう意味では、日本では文句が言えるだけ、まだましなのかなと思いました。艾さんはそうした状況でも頑張っている。それを見て、私も頑張らなければならないと思いました。

AWW もしかしたら、その意味では日本の方が多少開放的なのかもしれない。日本における性の問題については、私は多くを知らないが、私自身もヌード写真が猥褻とされて批判されたことがある。しかし、これは単純に性の問題であるというよりは、個人の自由であり、個人が自分の身体をどう使うかに関係してくる。私が逮捕されたときの、4つか5つあった罪状のひとつは猥褻図画伝播罪だった。

RK じゃあ、私の先輩ってことですね。重婚罪もそのひとつだったのですか?

AWW そのうちのひとつだったが、その事実はなく、でたらめに基づいた罪だ。猥褻図画伝播罪は、私が行なった「草泥马挡中央」*1 についてだった。

RK あの作品大好きです。

牧陽一(以下、MY) 私も艾さんの真似をしてやりました。あなたがあれが原因で逮捕されたと聞いたので。

RK 昨日、798芸術区のギャラリア・コンティニュア(常青画廊)と当代唐人芸術中心で行なわれている艾さんの個展で明代の古建築の作品を見ました。スケールが大きくて素晴らしかったです。

AWW もうひとつの展覧会も見た?Magician Space(魔金石空間)で展示している作品も見た?今夜6時にも草場地の赤レンガにあるChambers Fine Art(前波画廊)で、オーナーの誕生パーティーがあるよ。彼は印象派の専門家だけど現代美術の画廊をやっている。

RK ぜひ見に行きます。

AWW 招待するよ。

RK ありがとうございます。うれしいです。

AWW でも彼にはまんこはいらないよ、彼はゲイだからね。

RK 798で展示されていた古建築の作品ではコンセプトが示されていませんでした。たぶん見る人に任せるということだと思いました。日本では、作品展示のときにコンセプトを示すことが多いのですが、艾さんは示していない。それはなぜでしょうか?

AWW 若いアーティストはアーティスト同士、競争が多いからだろうね。私はもうみんなが知っているアーティストだということもあって、あまり言い過ぎないようにしている。そうしなくても、自分の作品について、ほかの人間がいろいろ言ってくれるから、私自身が言い過ぎてはいけないと思っている。特に、中国ではね、私はあまりものを言わないほうがいいんだ。

RK (笑)

(ろくでなし子は「まんこー」、艾未未は「マンゴー」といいながら、二人でiPhoneで記念撮影)

RK インスタグラムに載せてくれてる。うれしい!ハッピー!
深刻な問題だと思うのですが、艾さんは、国外に出られないのにくじけていません。そのパワーの秘訣はどこから来るのですか?

AWW そのパワーはまんこからくるんだよ。私のパスポートはまんこだからね。

RK (爆笑)何を聞けばいいかな。緊張して、うれしくて、何もいえない。

AWW そんなことないだろ。君のようなまんこアーティストが緊張してはいけない。

RK 生理の経血でまん拓をつくって発表した陳羚羊さん*2 は、なぜ逮捕されたり、猥褻罪にならないのですか?

AWW 中国ではこうした面に対してはゆるい。誰もかまいはしない。道徳問題が必ずしも法律問題になるとは限らない。政府批判でなければゆるいのだ。

RK 日本では逆ですね。安倍政権を批判しても捕まらないのに、まんこで捕まります。

AWW 日本ではこのソフビまんこちゃんは、ネットで買えるの?日本では売ってもいいの?いくら?

RK お土産のなかにもいれました。

AWW それでももう1つ欲しいな。いくら?

YM 100元ぐらいかな?

AWW あるかな。

(ポケットからお札を出して、毛沢東像をまんこちゃんで隠す艾未未)

RK (プレゼントを出して)「かなまら祭り」*3 の安産の飴ですよ。

AWW 男用?女用?

RK 両方ですね。巨大なちんこの神輿が出る「かなまら祭り」はいいのに、私の作品は猥褻でだめなんですって。


警官のコスプレをする艾未未とろくでなし子


*1 艾未未が、アルパカのぬいぐるみで股間を隠してジャンプしたパフォーマンス。ファック・ユア・マザー中国共産党中央委員会の意味になる。
*2 艾未未がキュレーターを務めた展覧会『FUCK OFF』(2000年)にも出品したアーティスト。
*3 川崎区の若宮八幡宮境内にある神社、金山神社(かなまら様)の毎年4月の第1日曜日に催される祭。

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