艾未未 インタビュー (2012年9月)

インタビュー / 牧陽一


艾未未 撮影:牧陽一

牧陽一(以下MY)自由とは何か、民族とは何か、人間とは何か、芸術とは何か、建築とは何か。艾未未さんのことばは、哲学的な思考を我々にたくさん与えてくれました。艾未未さんの文章や行動のひとつひとつに我々は考えさせられました。非常に素晴らしいと思っています。
私の意見としては、愛国は自国を称賛し、他国を貶めるようなことではないと思います。批判することの方がとても大切なことであり、艾未未さんの意見は中国にとってとても大切です。艾未未さんこそ本当の愛国者なのだと思います。本当の愛国者は自国を批判できる人のことだと思います。
単純な批判ではなく、未来に向けての批判、艾未未さんのお名前にある「未」という未来に向けての批判です。私は艾未未さんが人々の生活の為に批判する勇気に感服しています。艾未未さんと交流することで、私は自分の人生が意気に感じられます。愛国は単純なことではないというのが私の考えですが、艾未未さんはどうお考えですか?

艾未未(以下AWW) 昔、人々は自分が詳しいこととしか関わりがなかった。例えば、自分の学生、自分と人種、信仰面で共通点を持っている人としか関わらなかった。今日、地球は狭くなったと感じます。全ての人々と関係していることを我々にはもう分かっている。最も無関係だと思っていた人と一番関係しているかもしれない。この時期に愛国を語るのは、、、。そう言えば、私は「愛国賊」という言葉を作ったことがある。

MY「愛国賊」面白い表現ですね。

AWW 何を持って愛国を証明するのだろうか。国の運営において、一個人はどれぐらい参入しているのか、そもそも愛国の資格があるのか。国の運営、国の前途あるいは国の理想の為に、どれぐらい自分を犠牲にできるのか。何も犠牲にしない人のことを私は「愛国賊」と呼ぶ。そういう人はただ「愛国」を通じて、心理的なあるいは物質的な利益を得たいだけだ。
こういう行為は、愛国の短絡的な解釈だと思う。そうではないだろうか。間違った「愛国」は民族間の恨みや摩擦、意見の食い違いを深めることで、集団意識を強める傾向にある。こういう愛国行為は非常に愚かだと思う。政治家がよくこのような愛国手段をとる。政治家は中身が充実した方法を見出す前に、事を簡単に片づけるクセがある。単に「我々は彼らとは違う」、「我々は彼らより優秀だ」と言うだけだ。このような発想を受け入れるだけで、もう「脳残(脳に障害がある、人をばかにする言葉)」と言える。頭がおかしいということだ。
ある物事に「関心」があるのに、批判もしないし、良くしようともしない。それは関心があるとは言えない。そうだろう?我々は一番身近な人間の問題点を見つけようとする習慣がある。たとえば、子供。我々は自分の子供をしつけるけど、他人の子供をしつけない。何で自分の子供だけしつけるかと言うと、特別な関係にあるからだ。同様に、家族も友だちも私たちの問題を厳しく指摘してくれる。このような関係になければ、問題に関わる必要がないだろう。
中国の場合、愛国に関してさらに問題がある。一個の中国人として、人権でさえ認めてもらえない前提で、主権を語るのはばかばかしいことだ。人権はいつでも主権を上回る大切なものだ。まず人間である権利、批判する権利、判断する権利を持ってから、批判、判断、選択ができるわけだ。多くの人、特に最近起きた中日の紛争を巡っては、まず、この紛争において、正しい、正しくないという歴史的原因は置いておこう、歴史的原因は我々が細かく検証できないからだ。私から見れば、多くの人々が見せたいわゆる愛国情熱は実に愚かなものだ。
まず、そういう人には資格がないからだ。彼らはこの国の本当の公民ではない。選挙権を持っていない。そうだろう?奴隷には国境はない。

MY 奴隷には国境はありませんか。

AWW 奴隷は愛国を求められない。奴隷は全世界共通で、奴隷は奴隷だ。公民ではなければ、奴隷だ。そうだろう?一生懸命働くけど、政治において、選挙や判断の権利を持ってはいない。何で選挙や自由に表現あるいは判断する権利がないかというと、人間ではないからだ。表現の自由は公民の基本的な特質だ。
     
MY 公民ではない人は愛国者にもなれないのですね?

AWW オフサイド、サッカーのオフサイドだ。立つ位置がルール違反なのだ。まず、公民の権利を獲得してから、自分の権利を使っていい。例えば愛国の権利、芝生を愛する権利などだ。芝生を愛するというのも実現できない。私が持っているこの建物は不法建築だ。いつ取り壊されてもおかしくない。従って、私にもこの建物を愛する権利はない。土地が自分のものではないからだ。人々が口にしている「愛国」も「愛国」ではない。中国人には「この土地は自分のものだよ」と語ることは出来ないのと同様だ。

MY まず、公民であることが重要なのですね。

AWW そう、これが第一の権利だ。

MY 最近の政府間の問題、釣魚島の問題ですが、艾未未さんはツイッターで「釣魚台(政府高官の居る所)と釣魚島を交換しよう」とつぶやきましたね。非常に面白い発想だと思いました。

AWW 多くの物事は角度を変えて考えることが大切だ。
同じことを繰り返すようだけれども、先祖代々残してくれた家は政府が取り壊したければいつでも取り壊すことができる。つまり、公民の権利は全く相手にされていないのだ。それなのに、一つの島をどうしても奪還したいという。正直にいうと、政府が争わなければ、誰もその島の存在すら知らなかった。もちろん、島の帰属は一体どちらなのか、これは歴史的な問題で、我々で決められることではない、私にもよくわからない。思うに、紛争を抱えている土地はみな「公有化」できないだろうか?つまり、誰のものでもなく、全世界のものにして、誰でも行けるようにできないだろうか?争いのある場所は全部「公有化」すればいい。

MY 素晴らしい考えです。

AWW そうだろう?何で必ずどちらかのものと決めなければならないのだろうか?あなたのものでも、私のものでもなく、第三者のものである可能性もある。そうだろう?

MY そうです。

AWW 多くの考え方の論理性には問題があると思う。争っても決められないなら、国際裁判にすればいい。

MY そう、暴力で奪還するより。

AWW 国連があるではないか。国連も自分の土地を持った方がいいから、こういった紛争地を取り上げていいのではないだろうか?

MY 今回は中日国交40周年について取材しています。中国と日本の関係について、艾未未さん何かご意見はありませんか?

AWW 中日は隣国だよね。中日関係が良い状態にある時、悪い状態にあるよりは、当然互恵関係がずっと良いはずだと思う。これは基本だ。しかし、基本的価値観が一致するという前提がなければならない。中国とヨーロッパ、中国とアメリカの関係、全部このルールで語ることができる。もう一つ、中国は大国として、大国の責任を果たさなければならない。過去100年で、様々な歴史的原因があるけど、中国の人類への貢献はとても少ない。しかし、今の中国は経済面で成功している国と言える。国際的にも、重要なポストを占めている。このタイミングで、中国が文化的歴史的使命感をはっきりさせないと、外交と国内政策面で様々な混乱が起こりかねない。
中国外交の考え方は非常に混乱していると思う。基本原則が欠けている。これはシステムの歪みである。基本原則が欠けていて、一番基本なことで間違いをして、笑われる破目に陥る。中日関係に関して、これまで数代の中日指導者は共通意識を持っていたようだ。安定的な関係を維持してきたと思う。当然正常な関係を維持するのはほかのすべての事より大事だ。国と国との関係の中で、お互い利用する関係は最強だと思う。両国が異なる面を持っているから、お互い利用できる部分が見えてくる、相違点だ。相違点から需要が生まれてくる。相違点は存在しないわけがない。

MY 日本は中国と国交を結んでから、台湾との国交を断絶しました。もともとは台湾と国交があったのにも関わらず、です。台湾に関することは多くの人が忘れたようですが、忘れてはいけないと思います。例えば、今、中国を研究している日本の学者が中国大陸のことより、台湾のことを研究しています。なぜなら、台湾には民主の条件が整っているからです。だから、ほとんどの人は中国から離れて、台湾に行き、文化や文学に関する研究を行っています。いわゆる中国の集権主義の遠い原因はやはり中日戦争にあると思います。日本による侵略戦争という遠い昔のことが原因です。「小日本が中国を侵略した」ということで、毛沢東時代、国家の権力を集中していきました。この意識は今も変わっていない。集権主義は中国だけの問題、それともみんなが抱えている問題でしょうか?
さきほど、この建物も取り壊される可能性がある、自由がないとおっしゃいました。最近、烏坎(ウカン)というところで民主選挙が行われました。

AWW 現体制下では、自主権あるいは自主の可能性はない。共産党は地下政党から与党になって、党派の存在もしくは独立民間団体の存在が政権にとって最大の脅威であることを、誰よりもよくわかっている。利益が共通している人たち、宗教にせよ、信仰にせよ、共通の需要を持っている人が集まれば、政権にとってすべて脅威になる。集団の利益を代表しているからだ。中国はずっと、すべての独立勢力に対して、抑制、打撃を与えてきた。新しい中国が成立して、60年経った今も社会が乏しいままだ。なぜなら、社会面において、政府と人民しか存在していなくて、真ん中の宗教団体や社会団体、民間組織など、異なる利益を代表する部分が欠落しているからだ。

MY 本来の社会は複雑なものですね?

AWW 社会を芝生で例えると、様々な草が生えているべきだ。草が育って、土と水の流失を防ぐことができるからだ。だから、なぜ「厳しくすると中国社会はすぐにいい子になり、目を放すとすぐに乱れてしまうのか」と言うと、土地で例えれば、雨が降ると、水害になる。雨が降らなければ、今度は干ばつになる。ほかの状態はありえない。なぜなら、土壌が破壊されたからだ。雨が降れば、すぐに水害になる。北京で雨が降って、何と7、80人も溺死した。

MY そんなに多いのですか?

AWW 北京は地形が平原であり、本来はこんなことは起きるはずではなかった。生態環境の破壊度が分かるような事件だ。自然界の生態環境とは、どれぐらい植物、植生、水源、植物が生えているか、どれぐらい種の豊富であるかということを含んでいる。社会学の生態環境とは、異なる民族、異なる信仰、異なる利益階層、みんな存在すべきだ。存在していなければ、この社会は生態のない社会だと言えるのだ。だから非常に危険なのだ。安定していない。安定するはずもない。

MY 一つ具体的な質問をさせてください。艾未未さんの最近の脱税問題ですが。

AWW 私は脱税していない。

MY 脱税してないですよね。四川大地震に関する調査で、艾未未さんは政府のために仕事をして、たくさんのお金を投入した。逆に政府からお金をもらうべきだと思います。

AWW 公民として、公益事業にお金を使うには当然のことだ。我々は社会からお金を稼いでいるから、お金を社会に還元するのは当たり前だ。納税も通常やるべきことだ。自分たちが選んだ政府なら、その政府が納税者の代わりにその税金を全ての人々のために使う。しかし、公民でなく、政府を選んでいない場合、問題が起きる。でも、我々は納税していないわけではない。たくさん納税した。「FUCK」という会社は私のものではなく、デザイン会社だ。だが私が政府とは違う声を発しているため、政府は違う形で私に報復する。私の顔に泥を塗る。愚かなやり方だ。時代遅れだ。
私が言っていることが間違っていると考えるなら、直接議論するなどやり方はいくらでもあるはずだ。しかし、会話もなしに、「あなたは国家転覆を扇動している」とも言わないで、脱税と言われて、おかしなことだ。しかも脱税なら中国では逮捕されることはない、脱税した部分をちゃんと払えばいいのだ。脱税という罪名なら、脱税の帳簿を見せてほしい。経理係やマネージャーまで失踪して、いまだに姿を現していない。私はデザイナーであり、一度も契約にサインしたことがない。会社の法人でもない。「脱税」と言いたいのであれば、ちゃんと調べて、みんなに情報を公開して、彼らは「この人は汚い、脱税している」という言い方をしているけど、じゃあこの人はどのように脱税しているのか、どのような税金なのか、どのような計算をしているのかを公開しないといけない。
国内では私の名前を出すことは許されない。私を罵ることさえ許されない。新聞も取り上げることができない。

MY 出廷さえさせないですね?門を出て行ったら、法廷に行くなと止められましたね?

AWW そう、禁止されている。

MY あなたのやっていることの多くは社会のためにやっていることですね?たくさんのお金を使って、作品を売ったお金を全部使って。

AWW それでもまだたくさんお金は持っているよ。でもあんまり作品をつくり出したくはない。ほとんどの時間は掲示板やツイッターをやっている。作品を売ればお金がたくさん入るけど、作品づくりをあんまりやっていない。

MY 以前私に、「沢山のお金はいらない、一杯のご飯が食べられるのであれば、十分だ。100杯は要らない」と言いましたね。

AWW でもお客が来たら、もてなさないといけないね。そのような可能性も考えなくてはならない。自分のお腹がいっぱいになっても済まないこともある。

MY あなたはスタッフに給料を払うのを忘れたと聞きましたが。

AWW そんなことはない、冗談を言っているな。給料はあるよ。払っているよ。

MY 先ほど、お話しした脱税のこと、及び重婚のことについて、どう思いますか?

AWW 彼らも知っているはずだ。そういう噂はみんな嘘だ。だから、当局はこうやって私を脅かしている。悪い噂を作って、真相を知らない人たちに、私は悪人だというイメージを流したいのだろう。ネットでは若い人たちは私のことを良く理解しているはずだ。まったく大丈夫だよ。

MY 若い人たちはあなたのことをよく知っていますか?

AWW みんな知っているよ。当局の影響は受けていない。

MY ホテルでツイッターを見たいけど、見られますか?誰でも見れるのでしょうか。

AWW 誰でも見られるよ。テクニックを施せばね。 多くの人たちは面倒で、やらないだけなのだ。

MY あなたはいいことをやっているのに、なぜほかの芸術家は皆協力してくれないのでしょうか?

AWW 少ないね。中国は特殊な社会だ。確かに少ない。多いとは言えない。

MY この前、宋荘で「深表遺憾 So Sorry」(成都警察の艾未未襲撃事件、ミュンヘンでの手術、艾未未が再度成都警察を突き詰める様子を描いたドキュメンタリー)を上映しようとしましたが、途中で電源を切られました。彼らもあなたの作品を見せようと頑張ったのに邪魔されました。
ネット規制の問題についてですが、艾未未さんは五毛党(政府に依頼されてネット上で世論操作をする)を取材しましたね。その中で、五毛党が民衆は馬鹿だ、社会安定の方が大事だと言っています。

AWW 難しい問題だ。「五毛党」の奴らも仕事だからね。

MY そんなことをやっているのは若い人たちですか?

AWW そう、若い人たち。これは彼らの仕事だ。生活のためでもある。やっているけど、政府を信じてはない。

MY ネットの問題について、何か言いたいことはありませんか?

AWW ネットサイトは中国で様々な制限をされているが、今日の中国では、依然として最も重要な技術的な手段だ。政府からの文化管理があるけれども、それでも、やはりネットを通じて、みんなは情報を得ているし、表現もしている。制限のおかげで、動作のスピードは遅くなるが、関心のある情報の取得や、表現はまだできる。民主と公民社会実現のために、ネットは最終的には重要な役割を果たすと思う。

MY 今後も同じですか?五毛党のことも、変わることはないですか?

AWW 今後も同じだと思うし、五毛党についても変えられない。時代の変化は、人の力ではどうすることもできない。すべての権力者は自分たちで世界を変えられると思っているらしいが、結局は変えられない。ローマ帝国も最終的には滅びた。

MY 若い人に、誰の情報を一番知りたいかと訊いたら、彼らの答えは、あなたに関する情報だと言っていましたね。


2012年09月01日(土)AM9:30  北京草場地艾未未フェイクスタジオ

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