艾未未のことば 9 芸術の啓発

芸術の啓発
インタビュー / Zoo Magazine(訳 / 阪本ちづみ)
このインタビューは「Zoo Magazine」(2010年、NO. 26)に収録された内容をもとにしています。


Fairytale – 1001 chairs (2007)

Zoo Magazine 最初に芸術、視覚言語と個人的映像について話しましょう。あなたの作品はよく骨董の椅子やランプや家具を使います。たとえばある作品では破壊された明清時代の家の1001脚の椅子と戸を使いました。民族の伝統的な物を廉価な材料として使いましたが、これは一種の挑発ですか?

艾未未(以下AWW) それは挑発ではない。古い材料を使うのは我々の過去に向かい合うためだ。過去を判定する時も伝統を参考にしなければならない。

Zoo Magazine しかし、前のインタビューでは民族主義や民族の記号は全く嫌いだと見てとれましたが。

AWW 私は民族の記号など気にはしない。私は中国に長いこといた。だからそれらの物は私個人の伝統に対する認識の一部だ。我々の過去と現在は切っても切れない関係にある。我々の歴史はずっと新たに解釈され続けている。私が芸術作品でこれらを使うのはそれが歴史の最もよい証人だからだ。

Zoo Magazine あなたは作品で個人の記号を使いましたか?

AWW 私は私が何か記号を持っているかどうか知るわけがない。それらは私の作品に自然に現れるだけだ。それはすべて壊滅させられてもいい。私にとっては全く重要ではない。

Zoo Magazine 17世紀から、中国と西洋の芸術の間に対話があった。西洋の芸術家が中国に来て、中国の芸術に影響を与えました。少なくとも西洋の芸術史はそのように書いてあります。たとえば絵画に陰影を使うは西洋の芸術家から学んだのだと。

AWW 我々は絵画に陰影を使ったことは今までない。たとえ今日でも使わない。中国人にとって、芸術は具象だったことはない。芸術とは現実を分析し、描写する方法だととらえている。しかし我々は、今まで科学的な方法で真実の世界に対して芸術表現を行ったことはない。芸術品を現実の中の物のようにとらえたくない。それは西洋の伝統だ。最初から我々は何が芸術か、芸術は大自然を複製する必要はない、もっと深く理解するべきだと思っている。

Zoo Magazine その観点は西洋の芸術に影響すると思いますか?

AWW 20世紀の西洋のモダンアートは東洋の思考形式の影響がとても大きいと思う。形式を実現するのではなく、概念を強調する。これは我々の芸術に対する理解に似通っている。

Zoo Magazine 2007年にドクメンタで展示した作品「童話」では1001人の中国人をカッセルへ連れて行きました。なぜなら、まさにあなたが言うように、知らない土地は個人の体験に変化をもたらすからです。このプロジェクトは社会的文化的実験なのですか、それとも芸術的プロジェクトなのですか?

AWW 私は両者の間に何か対立があるとは思わない。もしわれわれが感知することができれば何でも芸術になる。このプロジェクトは新しい表現形式と魅力あふれるコミュニケーションの方法だ。芸術とは何かではなく、芸術によってでなければ社会と政治との関連を想像するすべはない。

Zoo Magazine 作品の結果に満足していますか?

AWW とても満足だ。なぜなら私に芸術とはどうあるべきかという新たな啓発を与えてくれた。それは私の芸術の限界を広げてくれた。

Zoo Magazine それは面白いです。あなたにとって、芸術はあなたの世界に対する感じ方を意味しており、そのカテゴリーの中では全く制限をうけないのですね。

AWW 芸術は水に似ている。それは流動し、どんな形にでもなる。芸術はひとつのカテゴリーではなく一種の魔法だ。我々自身は自分の生活に向き合う。だから我々の感じ方や激情を放棄してはいけない。芸術はそのルートを提供するのだ。

Zoo Magazine あなたはカッセルに連れて行った人たちの生活を変えたと思いますか。

AWW 多くの人が今回の体験で生活が変わったと言っている。ある人にとってそれはひとつの夢であり、ある人たちにとっては新生活の真の始まりだった。彼らは異なる文化と向き合い、異なる判断をどうやってするかを学んだ。非常に重要な点は、人々が思考する手助けができるという新たな可能性だ。人々は自分の生活にさらにはっきりとした認識を持った。

Zoo Magazine 中国と西洋文化の関係についてもうひとつの質問をしたいと思います。2007年、重要な展覧会がブリュッセルで行われ、中国とヨーロッパの約500年間の絵画を展示しました。*1 題名は『禁入帝国』。この題名は1932年の同じ名前の本からきています。その主なメッセージは、我々のこの時代、中国とヨーロッパの地理的な距離は縮まったが、心理的距離は今までのどの時代よりも離れているというものです。どう思いますか?

AWW 芸術とは一種のコミュニケーションの手段であり、地理的な距離を超越できると思っている。芸術は私たちがどんなに似通っているかを認識させる。芸術を通して、我々は感動する。なぜなら我々が知らず知らずのうちにどのくらい失ったか、どのくらい得るものがあったかを意識させるからだ。

Zoo Magazine ここ数年間、中国のアートはヨーロッパでブームになっていますが、どう思いますか?

AWW 疑いようもなく、中国は今までにない社会であり、新しい文化的産物がある。この国家は長い間封鎖されており、その文化と知識は理解し難く、神秘に包まれている。他の社会のように、中国にも特殊で独特な哲学に基づいた文化的手法がある。これが西洋世界の好奇心をあおり、この点から今のブームが起きた。もう一つは市場のマーケティングからきている。だからこの二つがあわさって現在の中国アートの面白い現状を作り上げている。

Zoo Magazine 2008年にロンドンのサーチ・ギャラリーで行われた中国アート展*2 をご覧になりましたか?この展覧会は私に強烈な感覚を与えました。中国人のアーティストはヨーロッパの記号とヨーロッパの哲学を利用してヨーロッパの芸術を模倣しようと企図しています。少し不安になりました。なぜなら、その中に自分の情報はなく、形式と効果を競うゲームになってしまっているからです。

AWW あんまり注意していなかったな。たくさんの中国人のアーティストは理論と形式の模倣を通じて現代アートを学んできた。彼らの多くが中国で人気があるよ。

Zoo Magazine あなたは1997年中国芸術文件倉庫(China Art Archives&Warehouse/CAAW)を設立し、若く実験的なアーティストに場所を提供しました。特定のアートやアーティストであなたが特に支持したい人というのはありますか?

AWW ある。それは中国の今の情勢にかかわることを思考するアートだ。

Zoo Magazine 中国のアーティストで20世紀のアート、具体的にいうと文化大革命時期の芸術作品を振り返り再考している人はいますか?

AWW 今までのところ、私は文革の芸術を再考している人を見たことはない。なぜなら一般的に文革は議論されていいような話題ではないからだ。あの時代の芸術は大きい体系の一部分で、我々はいまだにあの時いったい何が起こったのかわからないでいる。

Zoo Magazine あなたは1981年から1993年の間ニュ―ヨークに住んでいました。アメリカにいた時期に通用する芸術言語を開発しようとしましたか?我々は通じ合えると思いますか?

AWW そうだ。優れた芸術はすべて一種のコミュニケーションの形式だ。私のニューヨークでの経験は、今日の私にとってとても重要であり、それが私の今の思想の基礎を築いた。その基礎があるからこそ、私は今やっと中国で力を発揮できている。

Zoo Magazine あなたは中国の芸術史は非常に重要で豊富だと言っていました。中国の今のアーティストはその基本に回帰すると思いますか?やはり国際的アートの趨勢に向かっていくのでしょうか?

AWW 中国人のアーティストが伝統に回帰するとは思わない。その言語は古ぼけすぎている。我々は自分がどこから来たか、今どんな位置にいるか知っている。しかし我々はもう過去にとらわれることはない。

Zoo Magazine ここでもう一つの問題です。ここ20年中国は大きな変化がありました。たくさんのイデオロギーは消し去られました。これがアーティストと伝統的な大衆との分離を招いたのではないですか?

AWW その通り。関係の断裂は本当に難しい問題だ。しかし我々は向き合わなければならない。我々はまだ共通の言語を開発できていない。

Zoo Magazine この現状を変えたいですか?

AWW もちろんだ。これこそ私が毎日ブログを更新する理由だ。私の仕事が社会にとって有益であるように願っている。この社会は依然として言論の自由がない。毎日イデオロギーに厳格にコントロールされている。おそらくいつの日か人々は私の努力を理解してくれるだろう。

Zoo Magazine 以前自分の作品は好きではないと言っていました。なぜですか?

AWW いかにコミュニケーションし、いかに全局面で必要なたくさんの技巧を保持するかだ。私は努力しているが、今のところまだあまり満足していない。私は作品を完璧に表現するため、ずっとより良い方式を探している。

Zoo Magazine あなたは以前インタビューで、道徳的な判断をしない人間はきらいだと言っていました。実際は何人かの有名なアーティストを指していました。あなたは自分の作品に道徳的な判断をしますか?芸術の目的は道徳的判断だと思っていますか?

AWW 芸術は社会の一部であり、我々は人類の生産品の一部だ。いかなる美学も道徳的判断から乖離していいとは思わない。芸術は世界に対する責任の一部だ。でなかったらなぜ芸術をするのかわからない。

Zoo Magazine 芸術も道徳の外に離脱できるとは思わないのですか?

AWW 私はそうは思わない。どんな審美的判断も道徳の一部だ。それを回避することはできない。回避するとみせかけている人は政治的立場が異なるだけだ。

Zoo Magazine 政治と道徳的立場の問題ですが、あなたの鳥の巣スタジアムに対する貢献を聞きたいと思います。あなたのこのプロジェクトへの貢献に関してはたくさんの論争が起こりました。あなた自身もそうです。中心のない自由の象徴である公共的彫刻があなたにとっては道徳的意義のある作品に変化しました。何があなたの考えを変えさせたのですか。

AWW 我々の初志は社会のために設計し、民主と自由のシンボルにすることだった。しかしそれが逆に向かい、政治宣伝の対象となり、党の宣伝の道具へと変わった。私の本来の意図に背いたのだ。

Zoo Magazine このプロジェクトが始まる時、あなたは本当に自由度があり、政府の干渉を受けないと信じていたのですか?

AWW 最初私は本当に、このプロジェクトは中国にもっと開放をもたらすと思っていた。なぜならこのプロジェクトは中国が世界の他国と同等の価値観を受け入れることを余儀なくさせるからだ。しかし後にこれは無理だった、私の思うようにはいかないとわかってきた。だから自分の判断を下し、結果について責任を負わざるをえなかった。

Zoo Magazine 中国の開放についてですが、あなたは、中国人はもう中国人ではなく、世界につながっている個体だと言いました。中国人の世界に対する帰属感は国家や社会団体への帰属感にとってかわったと思いますか?

AWW 中国は過去数十年で天地がひっくり返るような変化を経験した。情熱にあふれる数年を経験したのちに、社会で本当の闘争が始まった。今の中国はある異なる道徳文化の方向へ向かいもがいている。伝統と歴史のモデルは依然として我々のすることなすことに影響を及ぼしている。しかし我々も現代の西洋の思考方式へ向かう巨大な変化を見ることができる。

Zoo Magazine あなたは人々が良い変化への準備ができていると思いますか?

AWW 人々はもうちゃんと準備ができている。なぜなら中国はすでに世界第二の経済大国になったからだ。これは世界に向き合うという挑戦が到来したことを意味する。

Zoo Magazine あなたは民族主義の民主形式を擁護することは想像できますか?

AWW どの国も異なる特徴がある。しかしどのシステムの基礎も、最も基本的な社会的価値観と人権に基づかなければならない。

Zoo Magazine あなたは政治行動を通じて、基本的人権の尊重を伝えたいと思いますか?

AWW これは個人の国家権力への抵抗だ。もし国家のイデオロギーが個人の基本的権利を尊重しないなら、見て見ぬふりをするわけにはいかない。

Zoo Magazine あなたは現代の思潮が西洋の思考へと転換するのを見てきました。個体概念の認識に違いがあっても、中国と西洋は方法上に根本的な差異はないのでしょうか?中国の集団の概念は個人よりも重要なのではないですか?

AWW 集団主義の思考の中に個人主義があってもいい。新しいバランスを探り、新しい合法的な司法がそれを実践しなければならない。私は他の選択と他の可能性があると信じている。しかしそれは自覚とイデオロギーによって実現しなければならない。

Zoo Magazine それはとてつもない大きな仕事になりますね。それでは芸術界の自覚とイデオロギーはどうでしょうか?

AWW 芸術界は時代遅れの死にかけている体制だ。現代アートや現代思想とは無関係だ。この方法は非常に問題がある。なぜならそれは技能と関係しているからだ。技術は個人としての追求として重要かもしれないが、それは芸術の核心的価値ではない。

Zoo Magazine 芸術は検閲されるのですか?

AWW もし現状に反対しなければ検閲はない。政治と社会問題に疑義を呈すると、面倒な事になる。

Zoo Magazine あなたの人権を勝ち取る行動に、もっと多くの中国のアーティストの支持を望みますか?

AWW 今は基本的に私を支持する人はいない。しかしそれは関係ない。誰も自分がしなくてはならないことをするだけだ。私にとっては、この闘争は絶対に必要であり、わたしがやらなくてはならない事だ。

Zoo Magazine あなたは2008年のインタビューでは、危険を感じないと言っていました。でも去年の事件*3 が起きた後も、あなたは脅威を感じませんか?

AWW 私は大きな威嚇を受けた。私は何人もが懲役五年や十年の判決を下されたのを知っている。ただイデオロギーが党と異なるだけで、監獄で余生を過ごさなければならないとは、本当に恐ろしい。でも我々にどんな方法があるのか?もしわれわれが彼らを支持しなければ、事情は永遠に変わらない。若い世代もそう考えている。個人で立ち上がり話さなければならないなら、私はやる。だから私は立ち上がった。

Zoo Magazine 個人の安全が脅かされるなら中国を離れ国外で活動しますか?

AWW いや、中国にいるほうがいいだろう。若い世代にとっていい見本になる。もし国外にいたら、完全に異なる言語環境になる。我々は自由に思考しなければならない。

Zoo Magazine あなた個人の活動は非常に力強い手本になると思います。若い世代があなたの闘争を受け継ぎ、古い世代よりあなたを理解すると思いますか?

AWW 若い世代は私を理解してくれる。私たちはよくコミュニケーションをとっている。

Zoo Magazine 毎日ブログを更新するのも若い世代とコミュニケーションをとるためですか?

AWW 私は一人の精力的な先生だ。毎日4時間から8時間かけてネット上で彼らと現在の問題を討論する。140字の漢字で小説が書ける。

Zoo Magazine だから毎日4時間から8時間ネットで若者とおしゃべりしているのですね。何を話すのですか?

AWW なんでも。文化、芸術、政治、社会問題など。私の生活は教えること、コミュニケーション、そして芸術をすることだ。インターネットは中国で情報を得る最も良い手段だ。

Zoo Magazine 私はあなたがウォール・ストリート・ジャーナルに書いたグーグル事件に関する文章*4 を読みました。他の会社もグーグルと同様のことをすると思いますか。彼らは中国政府のインターネットに対する検閲の乱用を阻止すると思いますか?

AWW もし他の会社が同様の姿勢を見せるなら、それはとてもいい。でも難しいだろう。大多数の会社は中国と良好な商業的関係を維持したいだろう。体制に反抗する可能性はほぼない。

Zoo Magazine グーグルに対する期待はなんですか?

AWW 本当はわからない。おそらく何かの結果だろう。非常に重要なのは彼らが一つの選択をしたことだ。この選択は声が非常に大きく、みんなに聞こえた。

Zoo Magazine だからあなたは意見を発表した。意見を発表しただけで、人々に何が起こったか伝わりましたか?

AWW これは重要なことだ。個人が立場を表明しなければならない。芸術は立場の表明だ。

Zoo Magazine 今あなたは活躍する芸術家であり、キュレーターであり、建築家であり、政治活動家です。今後数年間、どの仕事が最重要だと思いますか?

AWW 正直な人間として、現実の中で生き、私の情熱と意志で行動を貫くことだ。

(2010年1月収録)


*1 2007年2月14日から5月6日、ベルギーのブリュッセル・アートセンター(BOZAR)で「中国ベルギー絵画500年」展が開催された。6月27日から9月5日には北京の故宮博物院でも開催。“中比绘画500年”布鲁塞尔开幕 http://www.51fashion.com.cn/FashionNews001/2007-2-27/86776.html
*2 2008年、サーチ・ギャラリーが新規開館した際の展覧会。”The Revolution Continues: New Art from China”と題し、張洹、張暁剛、孫原、彭禹らが参加した。
*3 2009年8月12日午前三時、成都市のホテルの部屋にいた艾未未を地元警察が襲撃し、右頭部を殴打された。
*4 Googleは2010年1月12日、公式ブログで中国版Google.cnの閉鎖を検討していることを明らかにし、2010年3月23日完全に撤退をした。艾未未は《Wall Street Journal》に〈Google Gives Us Hope〉と題する文章を発表し、彼のGmailがハッキングされていることなどを述べ、中国政府への抗議とGoogleの決断への支持を表明した。その文章は下記で読むことができる。http://online.wsj.com/news/articles/SB10001424052748703630404575054331237346618

本連載の責任編集を務める牧陽一による編著『アイ・ウェイウェイスタイル 現代中国の不良(ヒーロー)』が2014年2月に勉誠出版から刊行された。

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