連載 大竹伸朗 夢宙:1

2011年8月15日
2011年2月26日
アルフレッドと喫茶店にいた。彼はどうしても見てほしいとテーブル上に1冊の本を差し出した。手に取り中を見ると手旗信号に似たモノクロ図版が延々と並んでいる。「大竹くんの作品はイタリアのムンコイ理論を応用したものにおそらく関係アルヨ」とページ内の図版を指し示しながら指摘される。
その喫茶店を出て奨学金の申込書提出のためモルタルの建物を目指した。
目的の場所に着くと入口部分は完全に破壊された爆撃跡のような佇まいで驚いた。
しばらくしてそれが意図的なデザインの新築らしいことを知らされ興味をそそられる。内部は黒澤映画「のら犬」に出てくる闇市のよう、ボロをまとった多くの人々でごった返していて窓口が全くわからない。熱帯のような湿気。


2月28日
戦後の東欧を思わせるデザインの立方体の自動車(右ハンドル)を運転している。
助手席シート上に、人工着色の時代劇メンコが貼られた12本入鉛筆セットの紙ケース、軸に金箔漢字のメッセージが彫り込まれた中国製鉛筆が数本転がっている。今日は娘の卒業式の朝、なぜかドア越しの娘の部屋が頭に浮かんだ。


3月7日
「真空管の中に神が宿る」という信仰心が世に広まる。
「最高級品!御利益あり!!」といった謳い文句のコマーシャルがテレビに流れている。着物姿の顔を真っ白に塗った鉄砲光三郎が笑顔で出演、最後に「こんなんありまっせ!ハッハッハッハ・・・・」でCMは終わる。


3月12日
何かを受け取りに窓口へ直行すると背後には長い行列、ふりかえると2、3人目に嵐の相葉君がいる。気づかないまま無神経に割り込んだ状況になってしまいみんなから白い目で見られている。


3月14日
1. テレビでバラエティー番組を観ている。セーラームーンのようなコスチューム姿の人物が突然現れ、見ると北陽の虻川。彼女が漫才デビュー前はアイドル歌手を目指していたらしくまわりの芸人はヒドイ!と笑っているが、服は微妙なシースルー布地でソフトエロ路線を売りにしたアイドルを目指していたらしい。
2.矢野ら数人と打合せ中。「先月は北海道と東京を2往復してさ・・・」と話すと「さすがに北海道の話は・・今はちょっと・・・何かと東京が話題になっちゃってますからね」と話を制する微妙な雰囲気に陥る。他の編集者がそれに続き「今描くと、ホント北海道が田舎!って感じで強調されますよね」というので話すのを止める、がその意味がつかめないまま気まずい時間が過ぎていく。


3月17日
和室スタイルの進学塾に宇和島在住のハマチ養殖オヤジ、造船所オヤジの3人で入塾、初日それぞれの席を振り分けられる。塾長は仏頂面の夏目漱石のようで雰囲気は非常に重い。


3月24日
新宿歌舞伎町の雑居ビル内の風俗店内、窓際に中年男と黒革のビキニ姿の若い女が立っている。ビル全体は解体工事中だがその部屋だけ営業中らしい。
部屋奥に4メートル四方のモロッコの街中で見かけるような古い木製のドアが立てかけてあるのを見つけた。風俗嬢がいらないというので速攻で譲り受け、そばにいた赤いヘルメットをかぶった解体業者に出来るだけ丁寧に外してもらうようお願いする。気がつくと地中の身体サイズの穴に仰向けに寝ていた。いつ崩れるかわからない不安に陥る。いつのまにか海沿いの細い道を歩いていた。前方に黒い車が見える。近づくと対向車があり動けない様子。運転席から加山雄三が出てきたと思ったら防潮堤にさっと上り海に向かってガッツポーズをした。


3月26日
布製の風呂に浸かっていると突然の大地震、湯船が大きく揺れはじめた。そばにいた2匹の犬が慌てて湯船に飛び乗り寄り添ってきた。


3月27日
東海地方の海沿いの木造家屋一室、アイちゃんら2、3名とライブの打合せをしている。皆湯上がり。その後2時間に1本の列車に乗るため駅までタクシーを頼むと部屋の隅にいたバアさんが出てきて便乗したそうな雰囲気なので一緒に乗る。駅までの途中ライブハウスに立ち寄ると予想以上に閑散とした場所であることがわかる。中に入ると地元のパンクバンドが2.3名の客を前にリハーサル的に音を出していた。後方にはプロモーターらしき女子が腕を組んでチェックしている。


3月29日
球場でジャイアンツ戦観戦中。ジャイアンツの交代ピッチャーに千原ジュニアが告げられ必死に抑える姿に皆感動。洋服の縫目を餅で止める方法がスクリーンに流れ観客はそれにも感心している。スクリーンの内容とジュニアの活躍は何か大きな関係があるらしく観客はマウンドとスクリーンを交互に見ながら試合の流れを見守っている。新しい野球のルールらしいのだが、その関係がよくわからないまま時間が過ぎていく。


4月7日
狭い一室内、かれこれ20年近く会ったことのない母方の親戚ヒロシおじさんが目の前にいる。叔父さんは最近インドにハマっていてガンジーの話をはじめた。昨年新聞小説の挿絵で「ガンジー」を担当させてもらった話をするとカバンからブ厚いファイルを取り出し1年分の挿絵切り抜きを見せた。


4月8日
1. 夢の中の夢なのか、遠い昔大雪の下校時にクラスの女子3、4人と男子とで雪合戦をしたことを思い出している。
2. 3人乗り自転車で街中を抜け渋い居酒屋を目指していた。そこには別海のトウ
ちゃんがいて長らく借りていた「チベットの本」を返却する目的もあるらしい。居酒屋の前に車が着くとトウちゃんは梅干入りおにぎりを手渡してくれ乗り込む。トウちゃんの息子3歳のカズトモが運転手。


4月11日
戦国時代豊臣秀吉の死後54年後に建てられた「ヨーゲン院」という質素の極みとされる茶室に毛糸で編んだ着物姿のおばあさんと対峙している。
そこでは茶とともに貝料理を出すことで知られているらしく皿もなく茶器脇の畳に直に大きく様々な貝料理がむき出しで運ばれてくる。部屋の隅にはタカ&トシのトシが客人としてもう一人いることにあとから気づく。原発汚染で大丈夫かと一瞬思うが今のうちに食べておこうと素直に招かれることにする。


4月14日
バルサ材の大きなブロックから立方体の角材をできるだけ多く取る方法をおじさんに聞いていた。バルサ材は触るとチーズカマボコのように簡単に分かれる。そこに泥酔状態の親父が帰宅、アメリカで手に入れたという新聞広告チラシを持ち帰り解説をはじめた。内容は日本同様商品広告だが折り方次第で全体の形が替わりそれぞれの形と変化する印刷面との複雑な組み合わせが生まれるように配慮されていて結局エラく感心してしまう。


4月17日
地方の小さな美術館内にいた。芸能界とのつながりが売りの作家展を建て込み中だ。その作家と携帯電話で話しているのだがどれだけ有名人を知っているかを途切れることがない。「・・内緒よ、ここだけの話よ、実は来週の『笑っていとも』ね、リリーさんから私につなぎたいって,困っちゃった・・でね、仕方なくね、出ることになっちゃってね、内緒よコレ」
その時のやり取りが今話題の雑誌にバックナンバーに出てるから探しとくよってな話が延々と続く。入口正面に貼られたその作家の新作は「小学生」を正面から描いた印刷物でそれが妙に気に入ってしまう。
そこから福島須賀川にある美術館CCGAに行く。翌朝ホテルロビーに降りると地味な若者たちがチラチラとこちらを見ている。目が合うとこちらにやってきて「僕らは知りません!」と言う。ロビー内には戦前のヨーロッパサーカス一行といった集団がアクロバティックな練習をしている。奥の方で昔観た映画「フリークス」の一段が笑いながらそれを見ている。


4月18日
自宅の最寄駅から電車に乗り「ホートン駅」で下車、そこから徒歩で15分くらいのところに通う小学校がある。車窓は中央線の高円寺駅からの風景に似ている。ホートン駅のトイレに行くともの凄く込んでいる。突然奥にいたボロい厚手のコートを来た白人の浮浪者が床に広がる吐瀉物を手につけ用を足している人の背中に塗り付けヘラヘラと笑っている。下半身は丸出し、皆恐れをなしでトイレから出てきた。浮浪者は笑いながらフラフラと歩いて消えた。戻るのではないかと言った恐怖心とともにトイレに戻ると突き当たり奥に小部屋があり四つん這いの女を前後から責める男2人が見えた。ホートン駅のトイレは安い娼館としても有名らしい。通りに出るとそこはチャイナタウンのようなにぎわい、道路中央に黒いパグ犬が暑苦しそうな息で座しこちらを見ている。


4月25日
和風の小部屋にいた。ちゃぶ台の上に小型簡易ミシンがあり、2人のヒッピーが延々と布の一部を縫っている作業を手伝っている。作業に慣れはじめこのミシンで自分の作品を作れないか考えていると1人のヒッピーが大声で笑いはじめた。


4月27日
久々に再会したニホン猿の親子と道で出会った。母猿は小猿の肛門を必死に舐めはじめ一心不乱に小猿の対する気持ちを示す姿に人間以上の愛を感じ感動する。
いつのまにか2階の倉庫で起きた殺人事件の現場検証に立ち会っていた。
梯子で下に降りた途端、壁の塗装保護用のペンキだらけのシートに包まれた遺体がガバッと起き上がりそばにいた警察官にナイフで襲いかかった。


4月28日
夕暮れ時の国道。道の両側を大勢の人がゾロゾロと歩いている。歩道橋高架近くに来るとヘルメット姿の数人が威圧的に「ここから入るな!」と通行人を恫喝。
高架下には事故を起こしたばかりの列車が停車中、道端の巨大スクリーンではその事故を偶然捉えた映像が何度もスローモーションで繰り返し流れている。
ドンッという音と共に上方漫才夫婦のような老人カップルが笑いながら現れた(男はチョビヒゲにステテコ姿、女は着物)。スクリーンには古めかしい旅館のタイル貼りの昭和っぽい風呂が俯瞰から映し出されている。事故にあった2人の直前の映像らしく風呂には老夫婦が仲良く湯に浸かっている様子。列車事故の際、2人はその風呂にいて無事だったらしいが、その直後男は女を殺し逃走、結局その映像が決め手で男は逮捕されてしまう、といった流れ。


4月30日
地方での展覧会オープニング後、大勢で古い木造の旅館に宿泊することになった。その宿の特典は、明治時代から続く有名なレトロ銭湯に入浴すると古くから伝わる「おきまりポーズ」(タオルを巻き桶を手にしたオバちゃんが立て膝姿でニッコリ笑う)の記念写真を撮れるというものらしい。
浴室内の洗い場壁面にはシャワーとセットのような配置でタイル額に収められた歴代お決まりポーズ写真がたくさん並んでいる。近所の親父客は記念撮影を見るのが楽しみらしいが、その場の雰囲気に皆乗り気が失せはじめる。
並ぶ写真はどれもが傑作、とても素晴らしいものばかりだ。
気がつくと外の河原に1人でいて作品を作っていた。川下5mくらいのところに直径1mのドーナツ型の石が沈んでいて川上の水中からその石めがけて「水ガラス」を流している。その「水ガラス」で石中央の空洞部分に薄いガラスの膜を張ることが作品のポイントらしい。



今号よりART iTでは、大竹伸朗による不定期連載『夢宙』を開始する。
資生堂が偶数月に発行している隔月誌『よむ 花椿』で、大竹は『夜の生活』と題し、過去の夢日記を掲載している。『夢宙』では、より最近の夢日記を掲載する。第1回目の夢の始まりは今年2月から東日本大震災をはさんで4月までのもの。
大竹が夢を見なければ掲載されない、どれくらい不定期か誰も予測がつかない連載である。 (編集部)