ソフィ カル展/担当学芸員より3 [原美術館]

「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」担当学芸員の坪内雅美が、ソフィ カルの作品と接して得た「気付き」を3回に渡ってお届けします。

気付き3―盲人と海

今回の気付きは、2階に展示されている『最後に見たもの』(2010年)から。この作品は、ソフィ カルが、人生の途中で視力を失った人々に、「あなたが最後に見たものは何ですか」と問いかけたもの。13人の中途失明者の肖像写真、彼らの語った言葉、その言葉を視覚化したカルの写真とで構成されている。様々な事故や事件に巻き込まれたり、病気を患ったりと、最後に見たものを語るときには必ず失明の原因も語られることとなり、胸が痛む。

作品に登場する13名の中に、海を背景に撮影された男性がいる。本作品に登場する人々は皆、海に囲まれたイスタンブールの街に暮らしているが、肖像写真に海が写っているのは彼一人。海は彼の背後で美しい水平線を結んでいる。
思えば、“盲人と海”という組み合わせは、「気付き1」で説明した『盲目の人』(1999年)と同じである。『盲目の人』は、生まれつき目の見えない男性が、これまでに“見た”最も美しいものは海であると語り、“見る”ことが、視覚のみによるものではないことを伝えていた。であれば、海を背景に写る中途失明の男性も、今後、豊かなイメージを新たに想像していくに違いない――それを示唆するかのように、すでにこの男性は、静かに目を閉じ、波音に耳を澄ませ、潮の香りを吸い込んでいる。

盲人と海を組み合わせた上記2点は、原美術館の全展示室を俯瞰してみると、展示空間の始まりと終わりに、しかも空間的にちょうど向かい合う位置に配置されている。1点は最初の展示室右手に、そしてもう1点は最後の展示室の突き当りにある。それは、カルが様々な“不在”を制作の大きなテーマとしながらも、人間の知覚や想像力の可能性を信じ、その“不在”をひとつひとつ埋めていこうとしていることの表れのように思える。


「最後に見たもの」2010 年、カラー写真 ©ADAGP, Paris 2013
撮影:木奥惠三

本展はいよいよ6月30日[日]まで。

【最終週のソフィ カル ドキュメンタリー映画 「Sophie Calle: Untitled」 上映予定】
◎ 6月25日[火]、27日[木]、28日[金]
開場 15:50 上映時間 16:00- (1日1回上映)
◎ 6月26日[水]
開場 16:50 上映時間 17:00- 18:00- 19:00- (1日3回上映)

会場:原美術館 ザ・ホール
申込方法:申込不要。直接、会場へお越しください
参加料:無料(要入館料)

*すでに「ソフィ カル」展をご覧になったお客様は、チケットの半券をご提示いただくと、100円引きで入館し映画をご覧いただけます(水曜日のみ。他の割引との併用不可。割引は半券1枚につき1名様1回限り有効)
*お立ち見の場合もあります。予めご了承ください。

映画名:Sophie Calle: Untitled (Collection Empreintes)
監督:Victoria Clay Mendoza
制作:FOLAMOUR
制作年:2012年 
52分
お問い合わせ:原美術館 03-3445-0651

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「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」
2013年3月20日[水・祝]-6月30日[日]

*別館ハラ ミュージアム アークでの関連展示
「紡がれた言葉―ソフィ カルとミランダ ジュライ/原美術館コレクション」
3月16日[土]-6月26日[水]

「坂田栄一郎─江ノ島」
7月13日[土]-9月29日[日]

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