ソフィ カル展/担当学芸員より2 [原美術館]

「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」担当学芸員の坪内雅美が、ソフィ カルの作品と接して得た「気付き」を3回に渡ってお届けします。

気付き2 ― ステンシルの文字

「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」展の展示は、一見シンプルなようでいて、実のところ作家のこだわりが細部にまで詰まっている。
例えば、1階廊下の壁面に記された「海を見る」の文字。それはギャラリーIIに展示されている作品の題名であるが、通常、作品名は札状のキャプションに書かれたり、カッティングシートの切り文字が使われたりするところ、本展では作家の希望により、ステンシルで壁面に直接記されている。
ステンシルとは、図形や文字が切り抜かれた型を使って刷り出す印刷方法のこと。今回は、インクの代わりに軟らかい鉛筆で文字型を塗りつぶしていった。これにより文字に独特の風合いが生まれている。壁の微妙な凹凸によって残る斑と、少しずつ鉛筆で塗りつぶしていくその労力の痕跡が、時間の流れや揺らぎを生み、観る者の思考を促す。

『海を見る』(2011年)は、生まれてこの方、海を見たことのない人々が、初めて海を目にする様子を捉えた作品だ。カルとしては珍しく、言葉を使わず、映像と波の音で構成している。まずは背中から、そして振り返る彼らの表情からそれぞれの感情を量る。
波音とともに様々に思いを巡らしながら、展示室を出ようとする瞬間目に入るのが、ステンシルで記された「海を見る」の文字だ。海を見るとはどういう経験なのか、海とはどんな存在なのか――微妙に揺らぐ文字だけがそこにあることで、“海を見る”ことが、さっきまでの“彼らの”経験から、観る者“自身の”経験、延いては人と海との関係を省察するものとなる。ステンシルで記された作品名は、展示の極小さな部分に過ぎないが、それが想起させるものは大きい。


撮影:木奥惠三

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「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」
2013年3月20日[水・祝]-6月30日[日]

*別館ハラ ミュージアム アークでの関連展示
「紡がれた言葉―ソフィ カルとミランダ ジュライ/原美術館コレクション」
3月16日[土]-6月26日[水]

「坂田栄一郎─江ノ島」
7月13日[土]-9月29日[日]

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