1_安藤正子メールインタビュー [原美術館]

東京・原美術館より

いよいよ7月12日[木]から待望の美術館での初個展が始まる安藤正子。当館担当学芸員が行なったメールインタビューを、3回に渡ってお届けします。卓越した画力をもつ彼女の創作の背景、その思考に迫ります。


「Light」 2011年 パネル張りカンヴァスに油彩 111×100cm
ⓒMasako Ando Courtesy of Tomio Koyama Gallery

頭の中の風景をかたちにする
 
坪内雅美(原美術館 本展担当学芸員):
2004年の初個展を拝見して以来、ずっと新作をお待ちしていました。今回ようやく「ハラ ドキュメンツ」というかたちで安藤さんの作品を原美術館に展示できることをとても嬉しく思います。大変失礼ながら、とてもゆっくりとしたペースで制作していらっしゃいますが、それは作品の種みたいなものを育てるのに時間がかかるからなのでしょうか?それとも制作方法によるところが大きいのでしょうか?

安藤正子:
自分としては本当にいつも全速力で制作してるのです。作品の種に困ったことはありません。刈り取りきれなくて種はぼうぼうの茂みになってるかのようです。
実際の作業に理由があります。自分の頭の中でしか見えないものを、実際に目で見えるように翻訳するのは結構難しいことです。前回の展覧会のころは、まだやっと自分の絵のしっぽをつかんだかなという段階で、手探り状態で描いていました。鉛筆のドローイングからペインティングへ、という道筋を見つけ、そこら辺の草でぞうりを編み、会った人に道を聞きながらすすむ、みたいな感じです。
特にペインティングの際、イメージを色に反映させていく時の画面のコントロールに試行錯誤を繰り返すのにある程度時間を要します。もちろん狙って描いて進めるのですが、背景の色を動かしたり人の表情やモチーフの色を変えたりすると連動して全体をすこしづつ調整することになります。
細部と全体の反復ですが、描いて筆や指でなじませると、また半分くらいは消えてしまうので1工程すすめるのに、朝顔の葉っぱやクジャクの羽を幾層も描いてはなじませ、描いてはなじませ、とやることになります。は〜、思い出すだけで大変です(笑)。ここ三年半ほどは子育てしながらの制作ですので、以前に比べるとずいぶん実際は速くなってるはずです。
ドローイングに関しては、行き先に向かって自転車に空気をシュッシュと入れて進むくらいになったかな、と感じてます。ペインティングはまだスニーカーで徒歩ってかんじですが。

絵の声を聞きながら

坪内:
なるほど、かなり試行錯誤しながら描き進めるのですね。聞いているこちらも気が遠くなってきます。安藤さんの絵画特有の陶器のような質感は、具体的にはどんな方法で作られているものなのでしょうか?


「雲間にひそむ鬼のように」 2006年 パネル張りカンヴァスに油彩
190×140㎝ (2点組)
ⓒMasako Ando Courtesy of Tomio Koyama Gallery

安藤:
まずパネルにキャンバス地を張ります。次にファンデーションホワイトをベースにしたグレーで下地を塗っていきます。一層ごとに乾燥させ、キャンバスの布目が見えなくなるくらいまで目が埋まったら、充分に乾燥させた後サンドペーパーで磨きます。その後鉛筆画の絵をトレースし、徐々に色を置いたり、描写したり。絵の声を聞いて進めます。ここを描いて!とか次はここだよ!ってすごい言われますので、ハイ!いまやります!って。描いてる間はただただ絵に仕えてるかんじです。そうこうしている間にああいう絵肌になるのですが、、
具体的には、油絵の具には透明色と不透明色というのがあって、透明色だけでも不透明色だけでも自分の絵は出来なくて。
もっと具体的に言っていくと、人物の顔とか体とか葉っぱとか描いていくと、だんだん絵が固くなってきてそれぞれがはなればなれになってくる感じになります。なので、細部をまた全体に戻してやりたくなって、透明色で全体をグレーズしたり。グレーズというのは透明色をリンシードオイルに溶いたのを画面に薄く筆や手の平でたたきこんで、まあ、絵にうすい色のセロファンをかぶせるようなことです。
それで全体が手をつないだとこで、また前に進んでいくのですが、透明色が表面に出過ぎていると、画面がぐずぐずして抵抗感がないような感じがするので、乾ききらないうちにそれに近い不透明のグレーを叩いてのせて押さえたり。何層かかさなってきて画面が重くけば立って感じるときはサンドペーパーで磨いたり。また花や髪やなんか質感的な効果を得たくて、部分的にもグレーズ&描写を重ねたり。などなど。ぜんぶ感覚的なことで、あらゆる場所にそうした仕事をします。
そうしてとにかく自分の「感覚うなぎ」みたいなものの、ぬるぬるするしっぽをしっかり握って、逃がさないように走ってついていく。
と、ああいう感じの質感になり、それが良くも悪くもわたしの持ち物であって、画面のうるさかった声がだんだん静かになって、できたんじゃない?って絵に言ってもらえます。


作家近影 

(続く)

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原美術館

「ハラ ドキュメンツ9 安藤正子―おへその庭」
7月12日[木]―8月19日[日]

本展関連イベント 「Meet the Artist 安藤正子」(作家によるトーク)
7月14日[土] 2:00-3:00 pm 関連イベント 「Meet the Artist 安藤正子」(作家によるトーク)
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