2_カディム アリ 「ホームアゲイン」展作家解説[原美術館]

「ホームアゲイン―Japanを体験した10人のアーティスト」展出品作家メールインタビュー。今回は2007年に3カ月間、六本木にて滞在制作をしたカディム アリをご紹介します。グローバル化が進む中、文化や家族について考えさせられる作品です。
聞き手: NPO法人アーツイニシアティヴ東京[AIT/エイト] *この文章は展示室にも掲示されております。


本展記者会見にて 撮影:木奥惠三

カディム アリ Khadim Ali アフガニスタン 1978年生
パキスタンのクエッタ在住で両親はアフガニスタンの少数民族。パキスタンのラホール国立美術大学で伝統の細密画を学び、この技法を用いて、現代社会を映し出す作品を制作している。東京滞在中(2007)には、母国に幼い娘を残して、東京で働いているヨーロッパ出身の女性と出会い、女性が子守歌を歌うビデオ作品と、彼女との出会いから着想を得た細密画を手掛けた。アリは、福岡アジア美術館のAIRプログラムで来日した経験もあるほか、オーストラリアのアジアパシフィック現代美術トリエンナーレ、現在開催中のドクメンタ13(ドイツ・カッセル)にも出品

問1:2007年に東京で制作した作品には、六本木でホステスとして働くポーランド人の女性を描いていました。彼女と出会ったきっかけと、作品に繋がった経緯について教えてください。

彼女とは六本木のホステスバーで出会いました。そこでは、外国からきた男性や女性がさまざまな文化によって客を魅了していました。彼女が私のもとに接客に来たとき、彼女は、私がどこから来て東京で何をしていて、どんな仕事をしているのか聞きました。それに一通り答えると、私もまた彼女の出身を聞きました。すると彼女は、その日はバーで働く初日であること、そして、ここでホステスや娼婦になるのは嫌だと言いました。彼女を連れて歩く客の多くは、身体に触れ、彼女を侮辱します。彼女は続いて、日本での就労許可が無く、パスポートの期限も切れたので、不法滞在していることを告白しました。出身国での彼女は、ファッションモデルをしていたそうです。当初、私は彼女がなぜ日本に来て、なぜ娼婦とし働き、誰がそうさせているのか?という彼女のストーリーを短い映像作品にしたいと思いました。

問2:彼女は映像で子供に子守唄を唄っていました。作品で歌や詩は重要な要素ですか。

娼婦として働き始めた彼女は、自分の倫理観が崩れてしまったと考えていました。ある時、私は、彼女が彼女の母親と2歳の娘に電話しているのを聞きました。私にはポーランド語が分からないにも関わらず、泣きながら母親と娘と話すそのひと時は、天が与えた一瞬のように見えました。彼女はよく、電話越しに子守歌を歌い、幼い娘を寝かしつけていたそうです。私は、その子守歌こそが、彼女を生かすものだと感じました。


カディム アリ 「コイサンカ (子守歌)」 DVD 2007年 依田純子氏蔵

問3:新作に描かれているのは、ルスタムでしょうか。アフガニスタンの近年の状況を表しているようにも見えます。ここに描かれている文字は何を示しているのでしょうか。

これは「ルスタム」シリーズの中の「憑かれた蓮」という作品です。ルスタムとは、叙事詩人フェルドウスィーがペルシア語で作詩したイラン最大の民族叙事詩
「シャー ナーメ(王書)」に謳われた英雄ルスタムのことです。この叙事詩は、スルタン マフムード ガズナヴィ王宮のあったガズナ朝アフガニスタンで1010年に完成しました。フィクションとして書かれたものですが、約6万対句にも及ぶ大作です。この物語の中で、ルスタムは、彼の友人によって裏切られ、殺されます。その後に生き残るのはすべて悪魔です。これは、近年のアフガニスタンの状況を物語っているように思うのです。
アフガニスタンの紛争に関わった権力者たちは、何万人にも及ぶアフガニスタンの人々を殺したにも関わらず、投獄されずに現在も政権に関わり、自分たちをアフガニスタンの英雄と呼んでいるのですから。

問4:あなたにとって描くこと、そしてアートはどのような意義がありますか?アフガニスタンの出来事を記録する行為、あるいはその歴史を語っていくということもあるのでしょうか。

ハザラ人である私は、虐殺という悲しい歴史を持っています。1890年には、62%以上のハザラ人が主義・宗教・人種などの相違により迫害を受け、何千人もが国を追放され、アフガニスタン周辺諸国の避難所に散らばりました。作品制作を通して、私は、思いついたアイデアと自分の暗い歴史につきまとうヴィジョンのギャップを埋めようとしているのです。

Tumbler本展特設サイト http://homeagain2012.tumblr.com/
*BLOGにて作家や展覧会の動向を随時更新します。

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「ホームアゲイン―Japanを体験した10人のアーティスト」
8月28日[火]-11月18日[日]

「MU[無]―ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」
12月7日[金]-2013年3月10日[日]

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